自殺と遺伝の話

 前のエントリーで紹介した小羽俊士『境界性パーソナリティ障害』に載っていたちょっと気になる話。

 自殺や自殺関連行動の問題は、以前からうつ病などの関連で、精神医学の分野では大きな注目を集めていた。うつ病は自殺や自殺関連行動の大きなリスクにあることは知られているし、これは非常に理解しやすいことのように思える。しかしうつ病になっても自殺しようとする人と、しようとしない人がいることも知られていた。しかも、どういうわけか自殺の家族歴がある人は自殺や自殺関連行動を起こしやすいことも知られていた。これは一体どういうことなのか?自殺や自殺関連行動という行動パターンには遺伝性があるのか?こうした背景で、いくつもの「養子研究」や「双子研究」が行われた。自殺や自殺関連行動の要因が「生まれ」にあるのか、「育ち」にあるのかを調べるためだ。その結果、たとえば自殺をした親を持つ子供が養子として育てられた場合、親を自殺でによって亡くしたのではない養子の子供に比較して、約六倍もの自殺リスクを持ってしまうことが示された。また双子研究では、自殺既遂については一卵性双生児の一致率は十五パーセントであるのに対して二卵性双生児では〇・七パーセントでしかないことや、自殺関連行動についても一卵性双生児の一致率は三八パーセントであるのに対して二卵性双生児では〇パーセント(ここは誤植?(引用者))でしかないことなどから、強い遺伝的要因が示唆されてもきた。いくつもの類似した研究が行われて結果が積み重なっていく中で、自殺や自殺関連行動には大きな遺伝性があること、これは精神科疾患とはまた別の独立した遺伝をしているようであること、がわかってきたのである。(190ー191p)

 このあと、この遺伝的要因として「衝動的攻撃性」(=不満や情緒的な刺激に対して攻撃性や敵意という形で反応しやすい傾向)という性格が関わっているのではないか?という話が続くのだけれど、もしこれが本当ならば、かなりインパクのある話ではないかと。
 デュルケームは、個人的な事情が大きく関わっているはずの自殺が実は社会的な要因に大きく規定されていたということを古典的な名著『自殺論』で述べましたが、これらの研究によればさらに遺伝的な要因にも大きく規定されていることになり、ある意味で「人間の主体性の証」のようにも捉えられてきた自殺が遺伝と社会的要因の混合物になってしまっていくようです。


自殺論 (中公文庫)
宮島 喬
4122012562