『比較のなかの韓国政治』著者の浅羽先生と編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。に引き続き、編者の浅羽先生と有斐閣の編集部から御恵贈いただきました。どうもありがとうございます。
下にあげた本書の目次を最初から見ていくと、韓国の社会について幅広く論じた本のように見えますが、目次を読み進めていくと、映画、韓国語、朝鮮語文学など、社会科学にとどまらない広がりを持った本だということがわかります。さまざまな視点から韓国にアプローチできる本だと言えるでしょう。
目次は以下の通り。
はじめに 「他者の視点取得」をとおした現代韓国の合理的理解(浅羽祐樹)
第Ⅰ部 政治・社会・経済
第1章 分極化する韓国政治(浅羽祐樹)
第2章 分極化する韓国社会(春木育美)
第3章 変わりゆく韓国家族の姿(金香男)
第4章 韓国の政治経済と「日韓逆転」(金明中)
第Ⅱ部 外交・安全保障
第5章 韓国の対北朝鮮政策・統一政策(中戸祐夫)
第6章 米軍基地がつなぐ日本と韓国──朝鮮半島有事と「日米韓」安保連携(石田智範)
第7章 韓国の経済安全保障戦略──曖昧性から明確化へ(金ゼンマ)
第8章 韓国の国防戦略・計画(山口亮)
第Ⅲ部 文化・宗教・言語
第9章 映画という韓国社会を読み解くレンズ(成川彩)
第10章 宗教文化からみる韓国社会──越境する宗教(古田富建)
第11章 韓国語という鏡──日韓対照言語学の視座(朴鍾厚)
第12章 〈尹東柱〉という磁場──朝鮮語文学への潜り戸として(辻野裕紀)
第13章 韓国人にとって日本とはどういう存在なのか(小倉紀蔵)
内容的にすべてを紹介するのは難しいので、ここでは面白かったいくつかの章を紹介したいと思います。
第1章「分極化する韓国政治」(浅羽祐樹)と第2章「分極化する韓国社会」(春木育美)はともに分極化を扱っています。
第1章では韓国政治がどのように分極化しており、そこにはどのような背景があるのかということが書かれていますが、これについては浅羽祐樹『比較のなかの韓国政治』でも詳しく説明されていた部分ですので、ここでの紹介は割愛します。
第2章では、社会の分極化がさまざまな角度から分析されています。
まず、最初にあげられているのが経済的格差と学歴の問題です。ここでは映画『パラサイト』を例にして語られいますが、韓国では正規と非正規だけではなく、大企業と中小企業の格差が大きく、大企業の賃金を100とすると中小は57.7しかありません(日本は73.7)。
そこで大企業を目指すために高学歴獲得競争が起きるのですが、面白いのは2022年の韓国の大学進学率が73.8%なのに対して、ソウルは65.6%で全国で最下位という点です。これは浪人してより上の大学を目指す経済的余裕があるからです(39p)。
韓国では世代間対立も大きいですが、同時に若い世代では男女の対立という世代内対立も大きいのが特徴になります。
ただし、この部分に対しては、40代・50代のリベラル層と若い女性を一枚岩に捉えるのは間違いで、「問われるべきは、ジェンダー対立を生み出す要因ともなっている若い男性の保守化よりも中高年世代の男性中心主義や権力構造ではないでしょうか」(44−45p)と著者は述べています。
また、ソウルと地方の格差も深刻です。24年現在、ソウル首都圏(ソウル市、京畿道、仁川市)に全人口の50.8%にあたる2605万人住んでおり、大企業も集中しています。
また、大学においてソウルの大学において明確な序列があることも若者をソウルに引き付けています。地方大学を見下し「地雑大」といった言葉もあり、若者はソウルの有力大を目指す競争に巻き込まれています。
韓国では日本以上に早いペースで社会が変化していますが、家族も例外ではありません。第3章「変わりゆく韓国家族の姿」(金香男)がその問題を扱っています。
韓国は儒教の影響もあり、父系血縁原理が貫徹されていました。韓国にも家長が家族の構成員を監護し、その地位が長男に引き継がれる戸主制が存続していましたが、2005年に廃止され、08年からは戸籍に代わって個人を単位とする家族関係登録簿が導入されています。
こうした中で個人主義が進んでいるわけですが、その個人主義は積極的なものではなく、「多くの人がリスクを回避するために家族から逃避して」(62p)いる状況だともいいます。
一方、家族内の呼称(「お父さん」「お母さん」)が家族外の社会で使用されることも多く、家族主義の影響はまだ色濃く残っていたりもするのです。
第6章「米軍基地がつなぐ日本と韓国」(石田智範)は、日本と韓国が米軍、さらに詳しくいうと朝鮮国連軍を介してつながっていることを指摘しています。この問題は川名晋史『在日米軍基地』(中公新書)でも指摘されていたものですが、本章を読むと朝鮮半島有事において日本は局外者にはなれないことがわかると思います。
第7章「韓国の経済安全保障戦略」(金ゼンマ)は、韓国の経済安全保障戦略が解説されています。
文在寅政権までの韓国の方針はアメリカとも中国とも対立しないようにする「戦略的曖昧性」に基づいたもので、対中国を意識した経済安保戦略をとってきた第2次安倍政権以降の日本とは対照的でした。
尹錫悦政権になってこの方針は修正され、日米韓の協力関係を強化する方向にシフトします。ただし、尹大統領が失脚し、今後の韓国が第2次トランプ政権を見据えながらどのようなスタンスをとっていくのかは今後の注目点の1つとなるでしょう。
第8章「韓国の国防戦略・計画」(山口亮)で興味深いのは、1974年に始まった韓国軍と防衛産業の近代化を目指した「栗谷(ユルゴク)事業」についてです。
当時の朴正煕大統領は保守派でしたが、同時にアメリカにも不信感を持っており、自主防衛力の強化を目指します。
栗谷事業の影響もあって韓国では80年代から兵器の国産化が進み、近年では韓国からの兵器輸出が伸びています。
一方、発展が陸軍に偏ったことや、栗谷事業の推進の過程で汚職事件が起きるなどの問題点もあったとのことです。
第10章「宗教文化からみる韓国社会」(古田富建)で面白いのは韓国のキリスト教についての部分です。
韓国の統計庁の2015年の宗教統計によると、もっとも信徒数が多いのがプロテスタントの19.7%、次に仏教の15.5%、カトリックの7.9%、無宗教が56.1%となっています。儒教の扱いをどうするかはともかくとして、キリスト教徒が多いのが日本と韓国の1つの違いと言えるでしょう。
キリスト教は日本統治下の時代から広がっていましたが、解放後から80年代にかけて各教会が競うように信者を集め、メガチャーチがいくつも生まれました。中でもプロテスタントの汝矣島(ヨイド)純福音教会は2021年現在、57万人の信徒を抱え、1度に2万5千人を収容できる礼拝堂を持っています。
創設者の趙鏞基(チョ・ヨンギ)牧師の説教は「救いの三重祝福」と言われていますが、「イエスを信じれば金持ちになれて、健康になれて、霊的に平安になれる」(225p)というかなり現世的なものです。
このように東アジア的な除災招福的な信仰や聖霊体験が重視されているのが韓国のキリスト教の特徴だといいます。
第11章「韓国語という鏡」(朴鍾厚)は、自分は韓国語がほとんどわからないのですが、ハイコンテクストなのは日本語と同じだが、ハングルのみの表記だから分かち書きをしないとダメで、適切な分かち書きができていないと意味が違ってしまうという指摘などはなるほどと思いました。
その他、目次からもわかるようにさまざまなことが論じられているので、読む人それぞれに興味深く読める部分があると思います。
本書のタイトルは「韓国とつながる」ですが、韓国映画でもK-Popでも韓国文学でも、あるいは韓国の政治でも、韓国に対する何かに興味がある人がさらにもう一歩韓国につながるきっかけとなる本ではないかと思います。
