買おうと思っていた本が本屋になくて、「何を読もうかな〜?」と思っていたところ、授業のプライバシーの権利で毎年のように話している三島由紀夫の『宴のあと』が目に入り、今回初めて読んでみました。
まず、感想としては単純に面白いですね。ジャンル的にいうと芥川賞でも直木賞でも狙えそうな作品で、描写のうまさとドラマとしての面白さが両方あります。
元外務大臣の野口雄賢(モデルは有田八郎)が東京都知事選に立候補して落選した顛末を描いた小説(これが原因で有田からプライバシーの侵害だと訴えられた)で、妻を亡くしていた野口と結婚し、選挙運動を支えた福沢かづ(モデルは畔上輝井(あぜがみてるい))が主人公になっています。
かづは、政治家なども利用する料亭・雪後庵の女将であり、さまざまな苦労や男性遍歴を重ねがらこの料亭の主人となったエネルギッシュな女性です。
このかづが、元外交官でスマートなインテリである野口と出会い、関係を深めていきます。そして、2人は結婚するわけですが、結婚後にやってきたのが野口を東京都知事選の革新系の候補として担ごうという動きです。
最初は野口と一緒の墓に入れたらそれでいいように思っていたかづですが、この話を聞いてかづの闘争心は燃え上がります。
そして、雪後庵を抵当に入れて野口の選挙戦にのめり込んでいくのです。
この選挙戦とそれにのめり込んでいくかづの様子が本書の読みどころだと思います。
理念を語ることしかできない野口に対して、かづはエネルギッシュに大衆の中に飛び込んでいくわけですが、そうした選挙戦は保守陣営の得意とするところでもあり、この地上戦にかづは参謀の山崎とともに夫の野口を置いてきぼりにして踏み込んでいきます。
なまじ料亭で政治の世界を知っているからこそ、かづは選挙にはまっていくわけです。
こうした日本における選挙の魅力、あるいは魔力のようなものを本書は的確に描いています。
生まれてこのかた、彼女の情熱的な魂が、これほどまでに持続的に、これほどまでに有効に、使い尽くされたことは一度もない。一旦心に念じたことは必ず実現するという彼女の理不尽な確信が、これほど来る日も来る日も心の唯一の支えになったことはない。そういう確信は、ふだんはぼんやりと中空に浮かんでいた。それがこの数ヶ月は大地にしっかりと引き据えられ、それなしには生きられないようになっていた。(186p)
これはこの小説の後半に出てくる一節ですが、何度も選挙に出る人は、こうした感覚が忘れられなくて、どう考えても割に合わなそうな選挙に出るのかもしれませんね。
面白いですし、改めて三島由紀夫の「巧さ」を感じた小説でした。
