アティーク・ラヒーミー『悲しみを聴く石』

 なかなかよい海外小説を送り出している白水社の<エクス・リブリス>シリーズの最新刊は、アフガニスタン出身でフランスに亡命、現在はフランス語で小説を書き映画監督としても活躍するアティーク・ラヒーミーの『悲しみを聴く石』。
 なかなか読ませる小説ではあるのですが、個人的にはそんなに好きではない部類の小説。


 部屋の中で意識をなくして横たわる夫とそれを看病する妻。小説は部屋の天井にカメラを据え付けたような形で、部屋の中の出来事を描写して進みます。登場人物は少なく、基本は部屋の情景の描写と妻のモノローグ、そして外から聞こえる砲声など。
 カメラのたとえを出したことで映画的にも感じるかもしれませんが、どちらかというと場面転換のない演劇の台本を読んでいるようです。
 主人公から語られるアフガニスタンの女性の置かれた状況の過酷さは十分に伝わってきますし、それでいて、たんに「かわいそうな話」になっていないところも評価できます。


 ただ、全体的にあまりに「政治的」な感じがします。
 まあ、「ゴングール賞受賞」ということでそういうものかとは思っていたのですが、案の定という感じ。
 フランスの小説というのは、文壇的なものが未だにしっかりしているせいか(あくまで印象なので詳しいこと知らないです)、文学の評価に「政治」がつきまとっているような気がするんですよね。
 この小説はまさに「政治的に正しい小説」。それが一概に悪いとはいいませんが、個人的には「政治的な正しさ」とかにまったく捕われていない小説が好きなのです。
 ラストも衝撃的ではあるけど、ややご都合主義的な気もしてあまり好きじゃないです。


悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)
Atiq Rahimi
456009005X