ピュリッツァー賞に全米図書賞、さらにはアーサー・C・クラーク賞を受賞し、日本では2017年のTwitter文学賞・海外部門を受賞した小説。かつて、アメリカに存在した南部の奴隷を北部に逃がす組織「地下鉄道」をモチーフにした作品になります。
奴隷の逃亡を助けるのは違法であり、手助けした者は白人であっても罰せられたため、奴隷は「積み荷」、輸送を助ける人物は「車掌」、奴隷を匿う小屋は「駅」と呼ばれました。
本書の主人公はコーラと呼ばれるジョージア州に住む奴隷の少女で、新入りの少年奴隷のシーザーから奴隷を逃がす「地下鉄道」の話を聞き、逃亡を決意します。コーラの母のメイベルは娘をおいて逃亡しており、そのことと農場での凄惨な出来事もあって、コーラは逃亡の旅を始めるのです。
この農園での奴隷たちの生活や扱われ方の描写は非常にリアルであり、真に迫るものがあります。
ところが、本書はそこから飛躍します。本書では「地下鉄道」はその名の通り、奴隷を乗せて秘密のトンネルを走る鉄道なのです。この鉄道に乗って、コーラはジョージアからサウスカロライナへ、さらにノースカロライナへと移動していきます。
コーラとシーザーはとりあえず逃げた先のサウスカロライナで暖かく受け入れられるのですが、読み進めていくとサウスカロライナに摩天楼があったりと、どうも「本当の」サウスカロライナではないように感じられてきます。
先程述べたように、舞台はサウスカロライナ、ノースカロライナ、さらにテネシー、インディアナと移っていくのですが、インディアナを除くと、それぞれアメリカの戯画化されたディストピアになっています。
もちろん、これは19世紀を舞台としたフィクションであり、現実のアメリカを描いたものではないのですが、これらのディストピア(特にサウスカロライナとノースカロライナ)は人種差別から生み出されており、そこに現代までつづく「ディストピアとしてのアメリカ」を見ることができます。
そういった意味で本小説はSFっぽいところもあり、読み終えるとアーサー・C・クラーク賞を受賞したことが納得できます。
読む前は、想像力によって奴隷制に対抗する話かと思っていましたが、読み終えてみると、想像力によって奴隷制の病根をさらに掘り進めるような話でしたね。