舞城王太郎『ビッチマグネット』

 タイトルの「ビッチマグネット」とは、ビッチな女性を引き寄せてしまう男のこと。主人公の弟にその属性(?)があるようです。
 と、なかなか面白い語感のタイトルですが、この小説は「ビッチマグネット」や「ビッチ」についての小説というわけではありません。
 タイトルとは違って、香緒里と友徳という姉弟が少し壊れた家族の中で成長していく話で、語り手の香緒里が中学から25歳くらいになるまでの話が200ページちょっとの中におさめられています。形式的には非常に正統的なビルドゥングスロマンとも言えるでしょう。


 舞城王太郎で語り手が女の子というと、なんといっても思い出すのは『阿修羅ガール』ですが、『阿修羅ガール』の主人公アイコは行動、行動、行動!って感じで超特急的に動いていたけど、この『ビッチマグネット』の主人公の香緒里は妙に内省的で思弁的。
 まあ、この思弁的な主人公というのはビルドゥングスロマンには欠かせないものではありますが、その思弁がやや小説の勢いを殺してしまっているのは否めないし、ややくどい所もある。
 ただ、斎藤環が「舞城王太郎のキャラは「成長」を志向しているが、西尾維新のキャラは「成長」しない」と指摘していたように(斎藤環『文学の断層』読了 - 西東京日記 IN はてな参照)、今までの自分の武器であるスピードを犠牲にしてでも、舞城王太郎は「成長」というものを描きたいのかな?という気はします。
 最初は無茶苦茶で、近親相姦ものにでも発展するのかと思った小説も、ラストでは一段も二段も高いような所にきちんと落着いているのです。
 まだ、今の舞城王太郎は自分の書きたい小説にぴったりのスタイルというものを見つけていない感じで、ややちぐはぐな面もあるのですが、「成長」しない「キャラ」が好んで描かれる中で、舞城王太郎のチャレンジについては今後も追っかけていきたいですね。


 ちなみに一番最後の部分、僕は天童荒太の『悼む人』を読んでないのでわからないけど、『悼む人』への批判になっているのかな?
 『好き好き大好き超愛してる。』は『世界の中心で愛をさけぶ』への批判的な返答だったけど、これも『悼む人』への批判的な返答なのかな?


ビッチマグネット
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