『地獄でなぜ悪い』

 バカで悪趣味なんだけど、面白い!
 冒頭の♪全力歯ぎしりレッツゴー♪の歌から、『桐島、部活やめるってよ』の映画部を煮詰めてバカさとテンションだけを取り出したような映画製作集団「ファック・ボンバーズ」、そして必要以上に血が吹き出すヤクザの抗争と、B級というか、なんかのパロディでしかありえないような映画の出だしなんだけど、それが長谷川博己の異常なまでのハイテンションとともに、ものすごい「高み」に到達する映画。
 監督の園子温は『ヒミズ』でも、最後はテンションの高さで持って行った感じでしたが、今作は『ヒミズ』以上のハイテンションでさらなる爆発力を見せています。


 Yahoo!映画に載っているあらすじは以下の通り。

とある事情から、激しく対立する武藤(國村隼)と池上(堤真一)。そんな中、武藤は娘であるミツコ(二階堂ふみ)の映画デビューを実現させるべく、自らプロデューサーとなってミツコ主演作の製作に乗り出すことに。あるきっかけで映画監督に間違えられた公次(星野源)のもとで撮影が始まるが、困り果てた彼は映画マニアの平田(長谷川博己)に演出の代理を頼み込む。そこへライバルである武藤の娘だと知りつつもミツコのことが気になっている池上が絡んできたことで、思いも寄らぬ事件が起きてしまう。

 これだけ読むと、「ヤクザが映画を撮る」ということを題材にしたシチュエーションコメディで、映画を撮る中でヤクザたちが次々と問題を引き起こし、それが笑いになる映画のように思えますし、実際に見るまでは僕もそう思っていました。
 ところが、映画の撮影はなかなか始まらず、そこに至るまでの過程がけっこう長いです。
 この部分は存在感と色っぽさが際立つ二階堂ふみと、お決まりの國村隼のヤクザの演技とかで引っ張るわけですが、まあまあ面白いくらいのレベル。さらに二階堂ふみ星野源を引っ掛けてきて、行きがかり上星野源が映画監督をやる羽目になるのですが、このあたりの面白さも想定内。
 しかし、ここに異常なハイテンションな映画マニアにして「ファック・ボンバーズ」のリーダー長谷川博己が加わることによって、物語は一気に加速し、最後の映画撮影シーンへとなだれ込みます。
 

 流れとしても最後のアクションシーンにしても「こんなのあるわけ無いだろ!」ってものなのですが、それを「あり」と思わせてしまうのが、園子温の脚本であり、長谷川博己の演技。大河の『八重の桜』の尚之助さまのイメージを粉々に砕く怪演です。
 さらに、ドラマ『Woman』の役は悪くはないけど別に二階堂ふみじゃなくても…って感じだった二階堂ふみも、今回はエネルギーに満ち溢れたはまり役。『ヒミズ』を見た時は「宮崎あおいに似てる!」って印象でしたが、ビジュアル的には似てても全く違った女優人生を歩みそうですね。


 ギャグっぽいとはいえ、首が飛んだり、手が飛んだりなので、グロいのがダメな人にはおすすめしませんが、『キル・ビル』あたりが好きな人はぜひ。
 もちろん音楽のセンスとか過去の作品からの引用の上手さとかは『キル・ビル』にはかないませんが、最後のアクションのテンションの高さは負けてないですし、何よりも最近のタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』とかに見られるような、悪趣味を復讐という正義によって正当化するような姿勢がなくて、個人的に気持ちよく見れました。


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