『私の男』

 3ヶ月ぶりくらいの映画。暇があるときには見たい映画がなくて、見たい映画があるときは暇がないという状態が続いていましたが、ようやく。
 原作は桜庭一樹直木賞受賞作。未読ですが、近親相姦がテーマの話だということは知っていました。
 この手の話だと、主役の二人というのが致命的に重要になるのですが、その点、この『私の男』二階堂ふみ浅野忠信もとてもよいです。
 桜庭一樹の原作の通りなんでしょうけど、登場人物のセリフはやや大げさだったりするんですが、二階堂ふみだとそれが浮かないですし、中学生からOLまで演じていて、そのどれもが不自然でないのも考えてみればすごいです。子どもっぽさもありますし、妖しげといっていいほどの佇まいもありますし、強烈な存在感があります。
 出てきたときは「野性的な宮崎あおい」といった感じでしたが、映画女優としては宮崎あおい以上になるかもしれませんね。宮崎あおいはCMのイメージを気にしてかだんだんと「やたらに包容力のある妻」みたいな役ばっかになってきてしまったけど、二階堂ふみは『地獄でなぜ悪い」と今作でかなり思い切った役をやったんで、そんな風にまとまっていかないだろうし、それを期待したいです。
 そして、浅野忠信もちょっとゲスい感じが生きてます。ドラマ「ロング・グッバイ」のフィリップ・マーロウ役だと、何かが足りなかった浅野忠信ですが、ちょっとゲスい役をやらせると本当にハマりますね。
 また、流氷のシーンなども美しいですし、二階堂ふみの子ども時代を演じる「花子とアン」にも出てた山田望叶ちゃんと彼女が演じる奥尻島地震津波後の避難所のシーンもいいと思います。


 ただ、後半になると、邦画にありがちな「リアルさ=スマートに描かないこと」という思い込みのようなものが感じられて、そこは残念。東京の部屋とか殺人とかをあんな汚く描く必要はあるんでしょうか?
 もちろん、厳しいながらも美しい北海道の自然と東京の暮らしの対比ということなんでしょうが、東京に来てから急にイメージが平板になった気がしました。
 そして、血の雨のシーンもちょっとあからさますぎる気も。脚本と役者の演技で見せることは出来なかったのかな?とも思います。
 主演の二人がいいのでしらけてしまうことはないのですが、もう少し後半がスマートに撮れていればお客さんももっと呼ばえるのではないかと思いました。