『幻影師アイゼンハイム』

 原作がスティーヴン・ミルハウザーで主演がエドワード・ノートンとくれば、これは見るしかない!
 ただ、あのミルハウザーの世界を映画化できるのか?という不安も正直ありましうたけど。


 まず、ストーリーは大きく変えてあります。
 小説では謎めいた人物だったアイゼンハイムの過去を描き、身分を超えた恋をラブロマンスを物語の主軸に置いたため、小説では「果たして実在したのか?」とも思われるアイゼンハイムがしっかりとした実在の人物として描かれます。
 さらには原作にも出てきたウール警部を観客の視点的な人物とすることで、ストーリーをうまく展開させています。
 アイゼンハイムと公爵令嬢ソフィーの禁じられた恋、ソフィーの婚約者である皇太子の存在、そして皇太子の命を受けてアイゼンハイムを監視しつつアイゼンハイムのその技に尊敬の念を抱くウール警部。こいった人物を軸にラブロマンスとミステリーの要素を混ぜ込んだ脚本になっています。
 ということで、ある種の名人が芸を究めた末に少しずつ現実離れした世界に引き込まれていくっていうミルハウザーの小説の中心的テーマとは別の部分にスポットが当たっていると言っていいでしょう。


 けれども、映画として見せるのは、まずエドワード・ノートンの演技。 
 ミステリアスな部分を残しつつも、時には熱くラブロマンスを演じてみせるところはさすがです。
 (逆にヒロインのジェシカ・ビールは貴族の令嬢という感じがあんましなくていまいち)
 また、肝心のイリュージョンの部分もそれほど大げさにはせずに雰囲気を壊さずにうまく撮れていると思います。
 そして、ラスト。小説の終わりの部分から映画はしばらくつづきまして、最初は「なぜあそこで終りにしない」とも思ったのですが、その後にどんでん返し的な展開。これはこれで、この映画にふさわしいラストだったと思います。
 ミルハウザーファンならば「ちょっとちがうな」と思うかもしれませんが、一つの映画としてみればなかなかよくできている映画ではないでしょうか。
 
 ちなみに原作の「幻影師アイゼンハイム」は下の『バーナム博物館』の所収。


バーナム博物館 (白水uブックス―海外小説の誘惑)
Steven Millhauser 柴田 元幸
4560071403


晩ご飯はカレーとトマト