『ダンケルク』

 映画の冒頭、主人公はダンケルクの町で敵の襲撃を受け、なんとか味方の陣地まで辿りついて撤退が行われる砂浜へと向かう。
 するとそこには一面の白い砂と撤退の船に乗るために列をなす兵士たちの黒い線が並んでいる。
 自分たちを乗せてくれる船をひたすら待つ兵士の列。しかし、そこにサイレンのような音を立ててドイツ軍の急降下爆撃機が襲い掛かる。砂浜なので兵士たちに隠れる場所などなく、兵士は絶望的に列を崩して地面に伏せる。
 とにかくこの映画はまずこの最初のシーンが素晴らしい。スケール感のある画面で、この作戦の規模や兵士たちの焦燥と絶望を印象づけます。

  
 『ダークナイト』、『インセプション』、『インターステラー』などの作品で知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作は、第2次世界大戦においてドイツ軍に追い詰められた英仏軍がイギリスへと撤退したダンケルクの撤退戦を描いたもの。
 ノーランの作品だけあって、単純な戦争映画ではなく、陸での1週間と海での1日そして空での1時間が違った時間軸で同時進行しつつ、最後に一つに重なっていくという構成になっています(『インセプション』がそんな映画でした)。
 また、陸のパートの主人公を含め兵士や船の乗組員などには比較的無名の役者を使っており(士官になるとケネス・ブラナーとかがいるんですが)、またその人物のバックグランドのようなものもほとんど描きません。家族ドラマやラブロマンスをほとんど切り捨てているという点では『シン・ゴジラ』に似たものがあります。


 この映画を見る前にテレビで見たクリストファー・ノーランへのインタビューで、「ダンケルクはイギリス人にとって団結の象徴だ」といったことを話していましたが、この映画において登場人物が「団結」を訴えたり、「団結」によって危機を脱したりすることはありません。陸のパートの兵士たちの多くは戦場で猜疑心に取り憑かれています(イギリス軍の中にはフランス軍の不甲斐なさへの不信みたいなものも垣間見える)。
 ただ、海のパートと空のパートでは、それぞれの登場人物が自分のできることを最大限果たそうと奮闘します。海のパートにでてくる小さな船の船長とその乗組員は危険を顧みずにダンケルクへと向かい、空のパートのスピットファイアパイロットはギリギリまでドイツの戦闘機や爆撃機と戦います。
 そして、その戦いが時間的に次第に収斂していき、ひとつの作戦として噛み合っていくのです。この「団結」を声高に主張せずに、映画の構成でそれを見せるのがこの映画の魅力であり、巧さといえるでしょう。
 また、ノーランはCGが嫌いでこの映画でもあまり使っていないとのことですが、それもあってスピットファイアの空戦シーンを筆頭に質感のある戦闘シーンが撮れていると思います。
 個人的には大満足な一本でした。