『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

 原題は「Darkest Hour」、日本でのタイトルだとチャーチルの評伝のようですが、チャーチルの首相就任からダンケルクの撤退戦を成功に導くまでのきわめて短い期間を描いた映画になります(ドキュメンタリータッチで描いているけど、時系列などはややいじっているのかな?)。
 監督は『つぐない』などのジョー・ライト(そういえば『つぐない』もダンケルクの映画だった)。画的には比較的平凡なのですが、脚本とドラマの作り方はなかなかうまいです。
 そして、何よりも主演のゲイリー・オールドマンが効いている。風貌はチャーチルとは全然似ていないのですが(だからこそ日本人の辻一弘が特殊メイクを行い、見事にアカデミー賞を受賞したわけですが)、仕草から演説まで非常に説得力のあるチャーチル像をつくり上げています。


 映画の基本的な骨格となるのが、あくまでも戦い抜こうとするチャーチルとイタリアを通じてドイツとの講話を探るチェンバレンハリファックスという保守党の有力政治家の対立です。
 観客はダンケルクの撤退が成功することも第2次世界対戦でイギリスが勝利することも知っているので、当然ながらチャーチルが正しいことを知っているわけですが、この映画はチェンバレンハリファックスの主張にもそれなりに説得力を持たせるように撮ってあり、それがドラマを盛り上げます。
 また、チャーチルに仕えるようになったタイピストの女性からの視点をとることで、チャーチルというがさつで面倒な人物の魅力を徐々に見せる形にもなっており、そのあたりも映画としては良く出来ています。


 国王ジョージ6世との交流の描き方もうまいですが、このジョージ6世といえば『英国王のスピーチ』の主人公です。
 『英国王のスピーチ』も、「スピーチ」や「言葉」に焦点を当てた映画でしたが、この映画もそう。チャーチルの発する「言葉」と「スピーチ」が歴史を動かしていくさまが描かれています。
 同時に個人的に印象に残ったのがチェンバレンの描き方。最後の最後でチャーチルにチャンスを与えてしまうその姿は、ミュンヘン会談でヒトラーに譲歩してしまった歴史的事実と重なるところがあり、危機における政治家の資質というものを考えさせられました。
 

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