ガードナー・R・ドゾワ他『海の鎖』

 国書刊行会未来の文学」シリーズの最終巻は、SF翻訳者・伊藤典夫によるアンソロジー。「仕事に時間がかかる」ことでも有名な翻訳者ということもあり、シリーズの最後を飾ることとなりました。

 比較的難解とされる作品を訳すことでも有名な翻訳者ですが、このアンソロジーでも、例えば「地を統べるもの」などは難解なイメージを振りまく作品ですが、「最後のジェリー・フェイギン・ショウ」のように軽いながらも面白い作品もありますし、問題作「リトルボーイ再び」もあります。そして、最後の2作品「フェルミの冬」と「海の鎖」はかなりレベルの高い中短編と言えるでしょう。

 以下、収録作品ごとに簡単に紹介していきます。

 

アラン・E・ナース「擬態」
 金星探検を終えて地球に向かう宇宙船の中に、ひそかに宇宙人(というか謎の生命体)が紛れ込んでいるという設定。船内で退院に擬態していると見られる宇宙人をどのように見つけ出すのかという話になります。

 ちょっと古さを感じせるアイディアや設定ですが、話として読ませます。

 

レイモンド・F・ジョーンズ「神々の贈り物」
 冷戦期、アメリカ沖になぞの宇宙船が墜落し、主人公のクラークは学生時代の友人でもある陸軍中将のジョージから手伝ってほしいと連絡を受ける。宇宙人の持つテクノロジーをめぐる各国の争いと、金持ちでスポーツ万能でモテたジョージとイケてなかったクラークの過去が絡むような形で話が展開します。これもなかなかうまい作品。

 

ブライアン・W・オールディスリトルボーイ再び」
 2045年8月6日、核兵器100周年を祝うものとして広告会社が再び広島に原爆を落とすショウを企画するという「不謹慎」な作品。

 この作品の面白いのは、20世紀の人間は「罪悪感と抑圧の悪臭をふんぷんと放つ、哀れな連中」なのに対して、未来の人間は快楽第一の幸福主義者として描いている点。現在におけるポリティカル・コレクトネスの隆盛などをみると、オールディスの予想は外れましたね。

フィリップ・ホセ・ファーマーキング・コング墜ちてのち」
 キングコングの映画をなぞるような形で、キングコングのショウを見に行った少年の顛末と苦い思い出を描いた作品。キングコングの映画をきちんと見ていないので何ともな部分もあるのですが、しっかりと見た人には面白いのではないかと。

 

M・ジョン・ハリスン「地を統べるもの」
 月の裏側で神が発見され、それが地球で起こす不思議な現象を調査するように命じられた男の話。スパイ物のように書かれているのですが、巨大な光の道が登場し、何かが運ばれているという設定は謎めいており、最後は信仰の問題へと展開します。非常に難解な雰囲気をまとった作品。

 

ジョン・モレッシイ「最後のジェリー・フェイギン・ショウ」
 箸休め的に置かれている作品なのですが、意外と面白い。

 視聴率男・ジェリー・フェイギンのショウのゲストとしてやってくるのはなんと宇宙人。その宇宙人は長年、地球を観察しており、また友好的で、ショウへの期待は嫌が上でも高まります。けれども、宇宙人は地球のつまらないスピーチをさんざん学習してきており、ショウはシラケていきます。ところが…! という作品。

 

フレデリック・ポール 「フェルミと冬」
 天文学者のマリバード博士が、ジョン・F・ケネディ空港で飛行機を待っていたときに世界は核戦争に突入する。空港は避難を試みる人で大混乱に陥るが、その中でマリバードは一人の少年を保護し、アイスランド行きの飛行機に乗ることに成功する。そして、アイスランドで「核の冬」を過ごすことになるという話。

 『三体』にも登場する「フェルミパラドックス」(地球外文明の存在の可能性の高さと、そのような文明との接触の証拠が皆無である事実の間にある矛盾)を下敷きにしながら、核の冬でのサバイバルと少年との交流を描く佳作です。

 

ガードナー・R・ドゾワ「海の鎖」

 異星人とのコンタクトと、家庭にも居場所がなく学校でも叱られてばかりという夢見がちな少年・トミーの話が平行的に描かれます。

 異星人とのコンタクトというと、友好的だったり敵対的だったり、あるいは無視されたりするわけですが、本作の面白さは異星人が人類以外の何かとコンタクトをとろうとしている点。子どもの目を通して世界を重層的に描き出します。

 

 SF作品としてレベルが高いのは最後の2作品ですが、自分としては「リトルボーイ再び」、「最後のジェリー・フェイギン・ショウ」も面白く読めました。これらの作品のアイディアは時代がたっても古びないですね。