『返校』

 以下は映画.comに載っている解説

2017年に発売された台湾の大ヒットホラーゲーム「返校」を実写映画化。国民党政権下の白色テロ時代を題材に描いたダークミステリーで、第56回金馬奨で最優秀新人監督賞など5部門を受賞した。1962年、台湾では中国国民党による独裁政権のもと、市民に相互監視と密告が強制されていた。ある日、翠華高校の女子生徒ファンが放課後の教室で眠りから目を覚ますと、周囲から人の気配が消えていた。誰もいない校内をさまよう彼女は、政府によって禁じられた本を読む読書会メンバーで、密かにファンを慕う男子生徒ウェイに遭遇。一緒に学校からの脱出を図るが、どうしても外に出ることができない。やがて2人は、学校で起きた政府による迫害事件と、その原因をつくった密告者の悲しい真相にたどり着く。

 

 まずはホラーゲームの実写化なので当然かも知れませんが、思ったよりも直球のホラーでした。

 うえのあらすじを読むと、段々とホラーじみてくるのかと思いますが、前半ははっきりと「悪夢」と銘打たれており、いかにもなホラー的な展開です。ファンとウェイがさまよう学校も明らかにおかしな空間として描かれており、高校生の男女が逃げ惑う学園ホラーです。

 

 ただ、日本なんかだと、学校の秘密と言えば「いじめられて自殺した生徒の存在」あたりに落ち着いていくのですが、本作ではそれが台湾の現代史と見事にリンクしています。

 映画の舞台となっている1962年の台湾は戒厳令下であり、さまざまな本が禁書になっており、共産主義者の密告が奨励されていた時代でした。

 ウェイが参加している「読書会」は、そうした禁書になった本をひそかに読むものであり、露見すれば厳しい処分が待っているまさに「秘密」の会でした。

 「秘密」とその秘密がどのように露見するのかというのはミステリーの醍醐味でありますが、中盤以降はこれがこの映画を引っ張っていきます。本作がたんなるホラー映画にとどまらない部分でしょう。

 

 変なクリーチャーが出てくるのはちょっとどうかな? と思いますが、ホラーシーンはよく練られていると思います(ふだんホラー映画をそんなに見ないので、ホラー映画としてのオリジナリティはよくわからないですが)。

 そして、主人公のファンを演じたワン・ジンがいいですね。ちょっとおどおどした感じはホラー映画にぴったりですし、それでいながら後半には引き締まった顔も見せています。

 

 最後に、現在の台湾では大陸(中華人民共和国)への反発が強まっていますが、そのときの大陸のイメージは、もちろん現在の大陸の社会の様子やさまざまなプロパガンダとそれへの反発などから構成されているのでしょうが、過去の台湾(中華民国)のイメージも投影されているのかもしれません。

 実際にそうだった部分もあるのでしょうが、この『返校』で描かれている1960年代の台湾には現在の大陸が重ねられていたようにも思えます。そして、だからこそヒットしたのではないか? と少し思いました。