『万引き家族』

 是枝作品はいつもラストをどこで切るのかということを考えながら見ているのですが、今回はやや「重い」感じで切ってきましたね。『誰も知らない』は最後にややファンタジーっぽく切ったことで陰惨な内容がやや軽くなるのですが、今回は重いまま観客に投げてきた感じです。
 実際にあった事件をモチーフにしつつ、それをややファンタジーっぽく描くというのは『誰も知らない』に通じるのですが、『誰も知らない』がほぼ「家族」の中だけで完結した話であるのに対して、この映画の後半では、その「家族」が社会と対峙します。
 当然ながら、ファンタジー的な擬似家族は大きく揺り動かれさざるをえないのですが、それを描いたところが是枝裕和の新境地といえるかもしれません。


 擬似家族というと、是枝作品では『海街Diary』にもそういうところがありますし、『そして父になる』もそうかもしれません。
 必ずしもがっちりとした血縁でつながっているわけではない家族の新しい絆というのは是枝作品で描かれる一つのモチーフなのですが、今までの作品ではそういった絆が形成される、あるいは形成される予感を描いたところで終わったものが多かったと思います。
 ところが、今回の作品では樹木希林リリー・フランキー安藤サクラ松岡茉優、そして小学生高学年くらいの祥太という構成からすると明らかに不自然な家族がすでに擬似家族を形成しています。さらに虐待を受けていた5歳の女の子を連れ帰ってきます。
 前半はこの擬似家族に新しいメンバーを受け入れるという、今までの是枝作品にも通じるような展開です。


 しかし、これだけのメンバーがすでに揃っているというとその裏には何かあると思わざるを得ませんし、まじてやタイトルにもあるように生活のために恒常的に万引きをしているような家族なので、その落とし前をどうするのか?ということも頭をよぎります。
 ここからはネタバレになるので詳細は控えますが、是枝監督は安易に泣かせるようなシーンをつくらずに(祥太を使った泣かせるシーンはいくらでもつくれそうでしたけど)、観客の胸に「重さ」を残しながら物語を終えます。
 この終盤の「重さ」を引き受ける安藤サクラの演技は見事。そして、全体を通して松岡茉優の演技と表情が光っていますね。もちろん、子役の演技のさせ方は相変わらずの巧さで、是枝作品の一つの集大成と言えるでしょうね。