『メアリと魔女の花』

 あまり良い評判を聞いていないので期待しないで見に行きましたが、そんなに悪くないじゃないですか。少なくとも『ゲド戦記』とか『猫の恩返し』よりも全然いいですし、後述するように「ある点」を除けば、『魔女の宅急便』や『ハウルの動く城』と同じくらいのレベルにある映画だと思います。


 オープニングはかなり派手で、魔法学校の建物が燃える中、赤毛の魔女が「魔女の花」をもって脱出します。追い掛ける空飛ぶ魔法の魚。ここは米林宏昌監督が原画を担当したという『崖の上のポニョ』の魔法の力で魚とポニョが海から飛び出すシーンを思い起こさせます。
 そして、タイトルがあってメアリが登場。大おばの所に預けられて退屈している少女で、自分の赤毛のくせっ毛にコンプレックスをもっています。声は杉咲花ですが、ちょっと年上に聞こえるところもありますが、全体的には上手いと思います。
 

 メアリは近所に住んでいる同年代の男の子のピーターと出会い、さらにピーターの飼い猫ある黒猫のティブと灰色の猫のギブと会い、猫達に導かれるようにして森の中で魔女の花・「夜間飛行」を見つけます。
 そして、同じく森の中で見つけた箒に魔力が宿り、メアリは魔女の国にある魔法大学へと導かれていくのです。


 基本的に主人公の設定といい、主人公が異世界に行って成長して家に帰るというストーリーといい、ジブリの王道とも言っていい内容です。
 背景は元ジブリのスタッフが担当しているというだけあって繊細で綺麗ですし、物語的にも特に破綻はなく、米林監督がよく映画全体をコントロール出来ていると思います。


 ただ、物足りないのは例えばティブの描き方。ティブはメアリを魔女の花へと導く存在であり、その後も行動を共にする、いわばファム・ファタル的な「運命の猫」です。
 ところが、これが本当にただの黒猫。喋らせるとジジになってしまうという問題があったのかもしれませんが、キャラとして全然立っていない。『耳をすませば』の雫を導く猫はユーモラスなデブ猫でいかにも何かありそうな雰囲気を漂わせていましたが、そういうものがないんですよね、もったいない。


 個人的には本作を「ジジのいない『魔女の宅急便』」くらいには評価してもいいんじゃないかと思うのですが、『魔女の宅急便』をリピートして見れるのはジジのお陰であり、ジジの存在こそがあの映画を老若男女が楽しんで見ることができる要因になっているような気もします。
 また、魔法の話として本作は『ハウルの動く城』よりもわかりやすくまとまっていますが、カルシファーマルクルにあたるような存在が欠けています。


 つまり、宮粼駿作品にあって本作に欠けているのは愛されるキャラです。
 後半はさまざまな動物が登場し、特に赤毛の猿などは2回ほど本来ならば笑えるべきポイントに顔を出すのですが、キャラとして自立していないために、たんなる赤毛の猿なんですよね。


 ずっと宮粼駿作品と比較する形で論じてきてしまいましたが、随所に過去の宮崎作品のイメージをなぞったところがあるのでこれは仕方のないところでしょう。
 もっとも、だから悪いとは思わなくて、良い所はどんどんパクっていけばいいと思います。
 今回、『借りぐらしのアリエッティ』よりもまとまりとしっかりとした起承転結があって、『思い出のマーニー』よりも派手で動きのある話がつくれたので、あと米林監督とスタジオポノックに必要なのは、トトロとは言わないまでもジジやコダマのような愛すべきキャラなんだと思います。