『悪人』と同じ吉田修一原作、李相日監督のコンビが送る作品ですが、何よりもまず目を奪われるのはその豪華キャスト。
渡辺謙に宮崎あおいに妻夫木聡に綾野剛に松山ケンイチに森山未來に広瀬すずと、ほぼ現在の日本映画のオールスターキャストと言ってもいいのではないでしょうか。さらに高畑充希やピエール瀧も出てますし、出番は少ないものの池脇千鶴もいい感じですし、演技に関しては非常に見応えがあります。ゲイを演じる妻夫木聡のゲイっぽさなんかも特筆すべきところですね。
ストーリーのモチーフになっているのが、イギリス人女性リンゼイ・アン・ホーカーさんを殺害し、整形などをしながら逃避行をつづけた市橋達也。彼はゲイのハッテン場などに身を隠していたなどと言われていましたが、そういったことがこのストーリーの元ネタになっています。
映画では、殺されるのはイギリス人女性ではなく八王子の郊外に住む夫婦で、その現場には大きく「怒」という文字が書かれています。そして、映画はこの事件の犯人を追いつつ、犯人として疑われる3人の男をめぐる群像劇のような形で進行します。
ハッテン場で知り合った妻夫木聡と綾野剛の東京での共同生活。東京の風俗店から千葉の漁港に連れ戻された宮崎あおいとその父の渡辺謙、そして少し前から漁港でアルバイトを始めた松山ケンイチの話。沖縄の無人島で謎の暮らしをしている森山未來に出会った広瀬すずとその友だちの辰哉(佐久本宝)の話の3つの話です。
タイトルは「怒り」となっていますが、この「怒り」は映画のなかでは、どちらかというと届かないもの溜め込まれるものとして描かれています。
例えば、渡辺謙と宮崎あおいの親子関係は、宮崎あおいがやや知的障害気味ということもあって、父である渡辺謙の心配とあきらめが中心に描かれます。周囲は家出して東京の風俗店で働いていた宮崎あおいを陰で噂するのですが、それに面と向かって怒れない「あきらめた」父を渡辺謙が好演しています。
また、沖縄のパートでは辰哉の父が米軍基地への反対運動に参加する姿も描かれているのですが、この「怒り」も届かない「怒り」として描かれています。
また、沖縄に引っ越してきたという広瀬すずも自分の母親に不満があるのですが、それを正面から告げることはありません。それは言っても仕方のない事だとわかっているからです。
このような現代に漂う無力さと溜め込まれる「怒り」をこの映画はうまく描いていきます。
演技だけでなく、千葉のアパートのシーンの撮り方などもいいと思いますし、全体として非常に丁寧につくられていると思います。
ただ、ややわかりにくいのが沖縄のパート。特に森山未來演じる田中の行動原理のようなものがいまいちよくわからないようになっています。
脚本化するときにいくつかのシーンを落としたためにわかりにくくなったのか、それとも原作の時からわかりにくいのか。後半の彼の行動のポイントがいまいちつかめませんでした。
もちろん、ある程度の「偽悪」があるというのはわかるのですが、やはり大事なポイントが抜けているような気がします。
あと、この手の群像劇だとラストをどこで切るかというのはいろいろあると思いますが、自分は広瀬すずよりも宮崎あおいのアップで切ってもいいんじゃないかと思いました。
単純に自分にとって宮崎あおい>広瀬すずだからかもしれないですけど。
↓原作は未読ですが、もう少しわかりやすいんですかね?
怒り(上) (中公文庫)
吉田 修一
怒り(下) (中公文庫)
吉田 修一