ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『忘却についての一般論』

 白水社<エクス・リブリス>シリーズの1冊で、アンゴラ生まれの作家によるアンゴラの内戦を背景にした作品。

 著者はアンゴラポルトガル・ブラジル系の両親のもとに生まれ、リスボンの大学を出て文筆業に入っています。書く言語はポルトガル語になります。

 

 本書の内容はカバー裏の紹介では以下のようになっています。

ポルトガル生まれのルドヴィカ(ルド)は空や広い場所を恐れている。両親を相次いで亡くし、唯一の家族である姉オデッテの結婚とともに、ダイヤモンド会社に勤める鉱山技師である義兄オルランドアンゴラの首都ルアンダに所有する豪奢なマンションの最上階に移り住む。長年にわたりポルトガル支配下にあったアンゴラでは、本国で起きた革命の余波を受けて解放闘争が激化し、1975年ついに独立を宣言。動乱のさなか、次々に出国する同国人の送別会のひとつに出かけた姉夫妻が消息不明となる。恐慌をきたし、外部からの襲撃を恐れたルドは、マンション内の部屋の入口をセメントで固めて、犬とともに自ら孤立し、自給自足の生活が始まる。その後、アンゴラは27年間にわたる泥沼の内戦状態に陥る。その間、屋上テラスのある最上階の部屋で、誰からも忘れられて一人で暮らすルドは、飢えと隣り合わせの日々のなか、自己と対話し、ありとあらゆる紙に、紙が尽きると今度は壁に、言葉を綴りつづける。一方、外の世界では、独立の動乱を乗り越えたさまざまな人間が、運命に手繰り寄せられるようにしてルドのもとへと引き寄せられていく。2013年度フェルナンド・ナモーラ文芸賞。2017年度国際ダブリン文学賞受賞作。

 

 これは面白い設定だと思います。アンゴラの内戦の中でマンションに立て籠もって、外界とは隔絶した暮らしを送る女性の話というのは非常に興味をそそります。

 実際、内戦の足音が近づいてきて、姉夫婦が失踪し、不安の中で立て籠もるという選択をするあたりまでは面白いです。

 ただし、その後の展開は期待ほどでもという感じです。

 

 この手の話だと、リアルにいくかファンタジーにいくかということになるのですが、本書はファンタジー路線です。主人公が飢えに襲われたりといったことはありますが、比較的都合よくサバイブできます。

 また、外の世界の話も展開していくのですが、その外の世界と主人公の立て籠もっている世界が後半ではややご都合主義的につながっていきます。設定からすると、かなり「重い」話になりそうですが、やや現実離れした個性的な人物を出すことで、そうした「重さ」を回避しています。

 ただ、個人的にはそういった「ファンタジー」の中にも何かしら「リアル」なものがほしいのですが、本書からはあまりそういったものは感じられませんでした。

 ストーリーとしては面白い部分があるんだけど、それが流れていってそんなに引っかかってこない感じでしたね。