ポール・コリアー『最底辺の10億人』読了

 各所で話題になっている本ですが、確かにこれは読むべき本。
 内容的には次のAmazonの紹介文をどうぞ。

柔軟性を欠く先進国、
縦割りの国際援助機関、
貪るだけの石油・建設企業、
そして、知性を欠いた善意のみに終始するNGO――
著者は、いずれも地獄の縁に生きるアフリカの人々を本気で救おうとはしていない、と断じる。
本書は一般向けに(世界の有権者へのアピールとして)書かれているが、最新の研究成果から、内戦と民族間の憎悪・所得の不平等・政治的抑圧などとの間に相関関係がないこと、民主制の下でも援助金が機能しない場合が多々あること、天然資源の収益が大きい場合民主政府は独裁政府の経済成長を上回れないこと、根本的な政策転換は内戦後ほど起きやすいこと等々、統計データに基づいて意表を突く事実を陸続と挙げ、既成の貧困国イメージを粉砕していく。そして、最貧の国々を捕らえる四つの罠――1「紛争の罠」2「天然資源の罠」3「内陸国であることの罠」4「劣悪なガバナンス(統治)の罠」の新たな克服法を提唱する。

 この本では、発展途上国からも取り残された10億人が暮らす最底辺の国々(多くはアフリカにあり、ほかにラオスミャンマーアフガニスタン北朝鮮、ハイチなどが入る、ボトム・ビリオンとも呼ばれる)は1970年代からほぼ成長しておらず、むしろ状況は悪化しつつあることが示され、今までの援助や国際社会の取り組みへの疑問が呈されています。
 一方、著者は貿易の自由化などの経済政策の限界も把握しており、もはやこの最底辺の国々は自由化や民主化では救えないという厳しい認識も持っています。
 中国やインドが安い人件費でグローバル市場に参入して以来、もはやアフリカの国がこのアジアのような成長戦略を採ることは非常に難しく、また、グローバル化による人と資本の自由化は、最底辺の国々から資本と優秀な人材の流出をもたらしており、グローバル化の恩恵はほとんどこれらの国には届いていないのです。


 また、コリアーは軍事介入という賛否両論のある手段を、有効なことも多いとあえて打ち出しています。
 ただ、「明らかにイラク以降は、どれほどおぞましい独裁者でも、外国の軍事介入からは安全である。イラクは先例をつくるどころか、一つの線引きをしてしまった」(295p)という現実も認識しており、この軍事介入という道もかなり難しいものです。


 読むと、あまりの問題の大きさと難しさに圧倒される本でもありますが、そんな中でも最底辺の国々がその罠から抜け出す道を、きちんとしたデータを使って探ろうとするコリアーの知的誠実さには力強さがあり、そのあたりが希望でもあるのかな、と思いました。
 これから、アフリカや最貧国の問題を考える上で基本図書となる本でしょう。


最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?
中谷 和男
4822246744