テレンス・マリックがオーストリア出身で第二次世界大戦中に良心的兵役拒否を行ったフランツ・イエーガーシュテッターについて描いた映画。自分はこの映画までイエーガーシュテッターのことを知りませんでしたけど、殉教者としてカトリック教会から列福された有名な人なのですね。
テレンス・マリックの戦争をテーマとして映画といえば、何と言っても『シン・レッド・ライン』なわけですが、『シン・レッド・ライン』のような戦場は描かれませんし、映画としてもあまり似てはいません(ヒトラーを写したフィルムが使われているんだけど、ヒトラーと山荘から見える自然の風景が交互に流される部分とかは『シン・レッド・ライン』っぽかったですが)。
似ているのは『ツリー・オブ・ライフ』ですね。
『ツリー・オブ・ライフ』は、神の許可を受けたサタンによって財産を奪われ重い病気にもされたヨブについて書かれた旧約聖書の「ヨブ記」をモチーフにした映画で、神の恩寵が届かない世界でも神を信じることができるのか? といったことが問われていましたが、本作もまさにそれがテーマになっています。
普通、イエーガーシュテッターのような人物を描く場合、「なぜ彼はそのような考えい至ったのか?」という部分が注目されるのではないかと思いますが、テレンス・マリックはそこをほぼ描かず、周囲からの説得や迫害に動じず、頑なに善を貫こうとするイエーガーシュテッターと苦悩する妻の姿を追います。
途中、「神についていけない」、「世界は変わらない」といったセリフが登場し、第2次世界大戦中のオーストリア(ドイツに併合されている)が恩寵から見放された場所であることがしばしば示されるのですが、それでもイエーガーシュテッターは自分が正しいと思う道を進もうと思うのです。
第2次世界大戦における良心的兵役拒否者を描いた映画としてはメル・ギブソンの『ハクソー・リッジ』がありますが、『ハクソー・リッジ』の主人公のデズモンドは神の恩寵を疑っていないですし、監督自身も神の恩寵を信じているのだと思います。
一方、本作は「神の恩寵はないのかもしれない」という疑いが常に差し挟まれています。イエスは十字架上で「わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか」と叫んだとのことですが、それに通じるような「恩寵の不在」に対する切迫した叫びのようなものが映画の通低音となっています。
映像は相変わらずきれいですし、テーマ的にも面白かったですが、テレンス・マリックらしくストーリーを追うタイプの映画ではないので見る人を選ぶでしょう。
あと、主人公は英語を話すんですけど、ドイツ語も使われていて、それはだいたい主人公を罵倒するときに使われていて字幕もつかない。これはちょっと問題があるようにも思えました(英語かドイツ語に統一すべきだったと思います)。