『1917 命をかけた伝令』

 サム・メンデス監督作品で、第一次世界大戦西部戦線を舞台に、前線の部隊に攻撃中止の命令を伝える伝令の体験を描いた映画。まるで、前編ワンカットで撮影したように構成されていて(途中で暗転するシーンもあるので相当な長回しをつないでいるのだと思いますが)、観客を没入させる形で戦場へと引きずり込みます。

 最初に味方の塹壕を歩き回るシーンでは。「一体どんなセットを組んでいるんだろう?」と思わず考えてしまいますが、だんだんとそういった考えが頭に浮かばなくなるほど緊迫感が増してきます。

 

 ただし、この映画には少し奇妙なところがあって、後半からはやや幻想的なシーンが多くなります。前半は徹底的にリアリズムで行くのかな? と思わせるのですが、後半はやや違うのです(考えられる理由については後述します)。

 この幻想的な感じが強くなることについては賛否もありそうですが、個人的にサム・メンデス湾岸戦争を描いた『ジャーヘッド』の後半にある戦場をさまようシーンを思い出しました。あの映画では油にまみれた馬などが妙に神秘的に描かれていたわけですが、今作にもそういったところがあります。

 ただ、そういった中でもラスト近くにある見方の突撃の中を横切って走るシーンは素晴らしい! 近年の映画の中でも屈指のシーンではないかと思います。

 

 実話ベース好きの最近のハリウッドの動向からすると、後半の幻想的な感じがアカデミー賞の主要部門を逃した原因ではないかとも思いますが、4DXのような周辺機器に頼るのではなく、あくまでも画面を通じて観客を映画の世界に引きつけるという点で、既存の大作映画から一歩踏み込んだ映画と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 以下ネタバレ含みます。

 

 

 この映画が後半幻想的になる要因ですが、おそらく、画面が暗転して夜になる場面でスコフィールドは死んでますよね。

 そうなると後半の妙に幻想的な様子も説明がつきます。例えば、スコフィールドが川に流されるシーンはまるでジョン・エヴァレット・ミレーの『オフィーリア』です(シェイクスピアの『ハムレット』に出てくるオフィーリアは溺死する)。

 また、スコフィールドが赤ん坊を世話する女性にミルクを差し出すシーンも、ミルクを水筒に入れたりする寄り道がトムの死につながったことを考えると、そのミルクに意味をもたせるための想像とも考えられると思う。