神田橋條治『発想の航跡』メモ2

 「境界例の治療」から

 留意しておいてほしいのは、対話の中でhere-and-nowを決して忘れないように、ということである。どのようなテーマを話し合っている場合でも、常に、いま対話が行われているその場での気持、雰囲気、判断、論理などと関連づけて考えておくことが重要なのである。境界例患者にとっては、here-and-nowの事柄のみが「現実的なこと」なのであり、hereでない、あるいはnowでないことは、たとえ事実であっても、対話の中ではphantasyとして取り扱うような態度(治療者の心の構え)をもっていることが、対話を主とする精神療法を境界例に行う場合の「コツ」のひとつだと筆者は考えている。(381p)

 学んだたくさんの理論や知識のほとんどが、治療の場の中でみえていると自覚する治療者がいたら、ほぼ間違いなくその人は、患者を餌食にして、理論確認のための探求作業をしているのである。しかも、みえているもののかなりのものは、おそらく幻であろう。(389p)

 波風の状態に、巻き込まれている治療者にとって、最も頼りになるレーダーは、自分の中に起こってくる感情や、雑多な連想である。これは、精神分析学派が、逆転移の活用とよんでいることであり、「本大系」のその項を参照していただきたい。ただ、ひとつ注意しておいてよいことがある。それは、自己の感情や雑多な連想のほうに、まったく注意が向かないときは、状況に巻き込まれて、治療判断や操作を誤る、最も危険な状態であるという注意である。いいかえると、治療者が最も混乱しているときは、最も冷静なときと、自覚的に区別しがたいということである。(392p)

 あと、長いから引用しないけど394〜395pにかけての秘密に関する考察も鋭いです。