クリストファー・プリースト『魔法』読了

クリストファー・プリースト『魔法』を読了。『奇術師』も『双生児』も面白かったけど、これも面白い!
 書かれた順は『魔法』→『奇術師』→『双生児』なんだけど、複雑な構成と語りのテクニックは後の2作を上回るものがありますね。記憶を失った男のもとを訪ねて来た一人の女性、そして思い出されたその女性との南仏でのラブロマンス…、けっこういかにも的な道具立てなんですが、プリーストですから一筋縄ではいかないです。
 ここまでで「読みたい!」って思った人で、変な知識をつけたくないという人はここから先は読まずに、実際に本を読んでみて下さい。
 もうちょっと知りたい人は以下もどうぞ。


魔法
クリストファー プリースト Christopher Priest 古沢 嘉通
4150203784



 この小説は6部仕立てで、それぞれ語り手や視点がちがったりするのですが、まず謎めいた3ページほどの第1部があり、それから爆弾テロに巻き込まれ部分的な記憶喪失になったリチャード・グレイがリハビリをしているシーンから始まる第2部がきます。第1部は謎の人物の一人称で語られているのですが、第2部はふつうの三人称で書かれています。これが普通の小説ならば別にそれでかまわないのですが、プリーストの作品でこのような三人称視点が出てくるとけっこう違和感がありますし、警戒感を持ってしまいます。
 そしてそこに現れるのがリチャードの過去を知っていると思われる女性スーザン。リチャードは彼女のことを思い出せないが、抜け落ちた記憶の手がかりとして彼女に執着する。
 そして第3部で語られるはリチャードの視点から語られる休暇中に南仏で出会ったスーザンとのラブロマンス。休暇中のリチャードはイギリス人の女性スーザンと出会い、恋に落ちるが、そこにはスーザンの腐れ縁的な恋人であるナイオールという男の影があり、2人の仲はそれが原因で気まずくなって行く。この第3部の最後にこの小説の原題である"glamour"(魅する力)というものが登場し、スーザンと喧嘩別れしたリチャードは爆弾テロに巻き込まれる。
 第4部はリハビリ施設を退院したリチャードがスーザンと一緒にロンドンに帰って来た様子が、また3人称で語られます。ここで、リチャードの南仏での記憶がスーザンによって否定され、続く第5部でスーザンの口から語られるのは、スーザンの持つ、そしてリチャードにもあるという不思議な能力のお話。2人の出会いも語られますが、第3部のリチャードの記憶と重なる所がありつつも、舞台などは全く異なる話です。
 そして、最後の第6部は再び三人称で始まりますが…。
 
 ここにいたって読者はこの本のメタフィクション的な構造と不思議な円環構造に気付きます。
 プリーストの本というのは最後まで読み終わったあとに、前の部分を読み返したくなる本なのですが、この本もまさにそう。すべてがクリアーのなるわけではありませんが、読者は最後にプリーストの仕掛けた大きなトリックを知ることになるのです。
 プリーストの入門としては『奇術師』がいいと思いますが、それを面白く感じたならこちらも必読!


〈プラチナファンタジイ〉 奇術師
クリストファー・プリースト 古沢 嘉通
4150203571


晩ご飯はうなぎとキュウリ