中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』読了

 中井久夫『こんなとき私はどうしてきたか』を読了。病院の医師や看護師にたいして行った講演をまとめたもので、これまた非常にいいです。
 統合失調症の患者を中心にすえながら、患者と出会ったときどうするか?患者の暴力にどう対処するか?病棟の運営をいかに行うべきか?回復期をどう支えるべきか?といった中井久夫の豊富な経験をもとに語られていますが、統合失調症について知りたい人や、それに関わっている人に限らず、得る内容の多い本だと思います。

 例えば、精神的なゆとりが持てない時は乱数がつくれず、「デタラメに数を言って下さい」と言っても、「1、2、3、4、5…」と言ってしまうことや、眠りの質は「寝られない」が最悪で、次に「寝てもすぐ覚める」、「眠っても寝た気がしない」、「いくら寝ても寝足りない」の順によくなり、そこから眠りの質や寝覚めの質が問題になるといった部分は普通の人にとっても参考になることでしょう。
 また、病棟経営において2人部屋ではどちらかがよくなりどちらかが悪くなってしまうことが多く、3人が最も安定、4人だと徒党ができ、6人だと牢名主的存在が出てくるといった指摘も、病院内に関わらず広く当てはまることだと思いますし、暴力への対処法の部分も医師や看護師に限らず、例えばヘルパーさんとか教員とか、さまざまな立場の人にとって知ってて損のない知識だと思います。

 もちろん、統合失調症の治療に関しても、妄想や幻聴の効用や、患者に話す時の「声」の重要性、回復期の危うさなど重要なことが語られていますし、患者が医者にさまざまな症状を教えてくれた場合、つまり患者が医者に多くを与えた場合、その予後がよくないという指摘も非常に重いものだと思います。

 ついでに付録の「精神保健いろは歌留多」も面白いので、ちょっとだけ紹介しておきますね。

ほ ほめ殺さないように ほめ殺されないように
へ 屁とも思わぬ相手が危ない
わ 忘れたらそのままにしよう
れ 礼儀は人のためならず
う うれしいことも 疲れる
の 残しておけば 明日が楽しみ
お お人好しの下手な疑い
や 山場は長くて四十日
て 敵のこころは合わせ鏡
し 幸せは意地からは来ない
す スパイスだけで料理はできない

 

こんなとき私はどうしてきたか (シリーズケアをひらく)
中井 久夫
4260004573