スティグリッツ『スティグリッツ教授の経済教室』を読了。
2003年から2007年にかけて、プロジェクト・シンジケートという雑誌に連載されたものをまとめたもので、一つ一つの記事は短いのですがいずれも読み応えのある内容です。
特にこの本が基調なのは、スティグリッツが、イラク戦争に反対し、途上国への援助を訴え、地球温暖化への取り組みを求めるという、いわゆるリベラルな立場からの提言を行っている点です。
経済学という理論武装をしたネオリベに対して、リベラルは理念による訴えしか出来ないという状況が目立ちますが、別に経済学は特定の価値を帯びているわけではなく、それを「拝金主義」とか「経済至上主義」というレッテルで攻撃してしまうところにリベラルの弱さがあると思うのですが、スティグリッツのこの本は経済学を使ってリベラルな主張をすることが可能であることを示してくれています。
日本の不況に対しては道徳主義的な構造改革ではなくリフレ的な解決を主張し、グローバリゼーションに対してはそれを擁護しつつアメリカやEUの偽善的な農業や知的財産の保護を攻撃する。そうしたスティグリッツの主張は「世界全体が豊かになるにはいかにするべきか?」という問題意識に貫かれています。
もちろん、1本1本の論文が短いので、例えば彼の提唱する「医薬品開発を促すための報奨制度」などがどれくらい有効なのか?という疑問が残ったり、グリーンスパンに対する評価が厳しすぎやしないか?と思ったりもするのですが、彼の主張は、きちんとした経済学によって貫かれています。
それほど難しい経済学の概念が使われているわけでもないので、経済学には興味がないけど国際政治には興味がある人なんかも読む価値のある本だと思います。
スティグリッツ教授の経済教室―グローバル経済のトピックスを読み解く
ジョセフ・E・スティグリッツ 藪下 史郎 藤井 清美