ヴィクトル・ペレーヴィン『チャパーエフと空虚』読了

 ロシアで最近注目を浴びているという作家ヴィクトル・ペレーヴィンの『チャパーエフと空虚』を読了。
 見返しには「ロシアの村上春樹」なんて言葉もあるけど、小説の内容としては全然違うような…。


 主人公はピョートル・プストタ(空虚)という名前で、彼が現代と革命期のロシアを交互に経験し、革命期のロシアではチャパーエフという実在した伝説的英雄に導かれて不思議な世界を経験していきます。
 出だしはソビエト時代の不条理な世界を描いた作品のような形で始まるんだけど、アーノルド・シュワルツェネッガーが出てくるし、主人公はいつのまにか精神病院にいたりで、なにが現実でなにが夢なのだかよくわからない形で話は進みます。
 この現実と夢の関係は、この小説を貫くもので、そこには荘子の「胡蝶の夢」の話や仏教の教えが絡み、全体的にアジア的なロシアともいうべきものが色濃く出ている。
 アジアと言えば当然日本も出てくるわけで、オダ・ノブナガとカワバタ・ヨシツネなる謎の人物が勤める日本の会社が出てきて、ちょっぴり変なサムライ談義が交わされたりと、著者がアジア的な「空虚」ともいうべきものにこだわっている様子がうかがえます。

 テーマが「空虚」というだけあって、はっきりとしたストーリーや安定した世界観というようなものは存在しないのですが、ロシアでしかあり得ないような不思議な感覚を味わえる小説でもありますね。
 

チャパーエフと空虚
ヴィクトル・ペレーヴィン 三浦 岳
4903619044


晩ご飯は豚汁