ミスチルのニューアルバム・SUPERMARKET FANTASYはタイトルとおり最近のアルバムの中でもひときわポップ色が強いアルバムで、前作のHOMEがけっこうフォークっぽかったのに対して、もっと派手で華やかな感じに仕上がっています。前作に引き続いて、アルバム自体は長すぎで、”羊、吠える”と”風と星とメビウスの輪”はいらなかったんじゃないかと思うけど、HOMEに比べるとシングル以外の曲も粒ぞろいで、完成度は高いと思う。
まあ、でもアルバムのレビューは熱心なファンがしまくってると思うので(Amazonのレビューとか発売前からすごいですからね)、ここではもはや完全にロックではなくなったミスチルの現在について。
今回のアルバムには、ずばり”ロックンロール”ってタイトルの曲があるのですが、これが全然ロックじゃない。
もちろんギターソロとかロックっぽい音は入ってるんだけど、メロディにしろ歌詞にしろ完全にポップス。
はじめの方の歌詞で♪R&Rのイメージそのまま/酒と女に溺れて死んでいく♪と歌っておきながら、最後は♪わかってるよ わかってるよ/今の暮らしが一番似合っている♪となってしまうわけですから。
ミスチルはいまだにライブで桜井和寿がけっこう病んでたときの曲である”ニシエヒガシエ”をやってくれたりするんですが、見方によってはその時期以降、ライブで盛り上がるようなロックナンバーがあんまりできていないとも言えると思います。
もっとも、それは別に悪いことではなくて、バントというか桜井和寿がそういうモードになっているということですよね。
個人的な見方として、ロックが「意味に対する反抗」であるとすれば、ヒップホップは「意味の獲得」、そしてポップスは「意味の捏造」だっていうふうに思っていてるのですが、ミスチルこそ「意味に対する反抗」から「意味の捏造」へと見事に変化したバンドじゃないかって感じます。
ミスチルをずっと聴いている人にはわかると思いますが、「深海」とか「BOLERO」あたりで強まったロック色は復帰後徐々に薄まって「It’s a wonderful world」あたりで、ほぼポップスになります。
今聴いても「深海」とか「BOLERO」あたりは、世間的な価値へのいらだちに満ちてますし、”Everything (It's you)”とか結婚制度への呪詛の歌といっていい感じですよね。
そんなミスチルは、休養後、だんだんと「意味の捏造」、この言い方がきつければ身近なものに「意味を発見」していくことで世間やリスナーと折り合いを付けていって、「シフクノオト」あたりでそのポップスへの転向が完了したんだと思います。
例えば、「シフクノオト」のシングルの”Any"の♪愛してると君が言う/口先だけだとしても/たまらなくうれしくなるから/それもまた僕にとって真実♪とか、”くるみ”の♪良かった事だけ思い出して/やけに年老いた気持になる/とはいえ暮らしの中で/今動き出そうとしてる/歯車のひとつにならなくてはなぁ♪ってあたりは、そうした方向の頂点に位置するような歌詞で、ほぼこのあたりでミスチルのポップバンドとしての世界観は完成したんでしょう。
というわけで、個人的にはミスチルのロックナンバーというのは「It’s a wonderful world」の”LOVEはじめました”あたりじゃないかなって思います。
そして、このロックバンドから完全にポップバンドに生まれ変わる「It’s a wonderful world」と「シフクノオト」が僕にとってはミスチルでもっとも好きなアルバムです。
それに比べると、今回のアルバムは、もちろん悪くないけど安定しすぎているんですよね。
SUPERMARKET FANTASY [通常盤]
Mr.Children
It’s a wonderful world
Mr.Children