アーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』

 SFの古典的名作をいまさら読了。
 やはり面白いですね。両性具有的な宇宙人というジェンダー的な仕掛けや民俗学的な語り口、他者との理解、二元論的世界観、冒険小説的な面白さ、いろいろなものが詰まっている本だと思います。特に主人公のゲイリー・アンとエストラーベンの愛と友情は美しいです。
 何を今更感がありますが、気づいたのはこの小説も非常に冷戦の影響を受けている小説だということ。
 主人公は対立するカルハイド王国とオルゴレインの間で翻弄されるわけですが、オルゴレインは明らかにソ連
 国家を動かす三十三委員会に秘密警察に強制収容所ソ連を思わせるものがたくさん登場します。
 そして、次の部分なんかはまさに冷戦的な構造を言い当てた部分と言えるでしょうし、冷戦が終わっても続いていることでしょう。

「わかりませんね。あなたのおっしゃる愛国心が、国土への愛ではないのだとすると。わたしはそう理解してきたのですが」
「いや、愛ではありません、わたしの言う愛国心とは。恐怖です。他者への恐怖です。しかもこの表現は、政治的なものであって詩的なものではない。憎悪、紛争、侵略。この恐怖は日ましにわれわれの体内で成長していきます。年ごとに深まっています。(後略)」(31p)


闇の左手 (ハヤカワ文庫 SF (252))
Ursula K. Le Guin 小尾 芙佐
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