ネオテニー・ジャパン ― 高橋コレクション

 今日は上野の森美術館で「ネオテニー・ジャパン ― 高橋コレクション」を見てきました。
 以前、http://d.hatena.ne.jp/morningrain/20080331/p1で紹介した斎藤環『アーティストは境界線上で踊る』でとり上げられたアーティストの多くが見れて、それに加えて奈良美智村上隆という「大御所」の作品も見ることができます。
 絵や彫刻、写真、オブジェ、ビデオと媒体はさまざまですが、受けた印象は2つあって、1つ目は「こわい+かわいい」、2つ目は「偏執的な細部へのこだわり」です。


 1つ目に関しては、展覧会のタイトルの「ネオテニー(幼児成熟)」がそれを表していますし、奈良美智村上隆の作品(DOBくんは至近距離で見ると怖い!)はその代表でしょう。
 それ以外にも、不気味ながらも笑いを誘い「家にあったらウケるし怖い!」と思った加藤泉の壁に手をついた巨大な赤ん坊(?)の像、絵の構図が「うまいな」って感じた町田久美の「訪問者」と「郵便配達夫」、のどかな風景を描きつつも不吉で不思議な「もうすぐ衣替え」、そして僕の好きな西尾康之のいびつな彫刻「素粒の鎧」。いずれも、「かわいさ」と「こわさ」が同居する作品です。
 もちろん、コレクションをした高橋龍太郎氏の趣味もあるのでしょうが、やはりこれが今の日本の「時代」というものなのでしょうね。

 
 2つ目の「偏執的な細部へのこだわり」に関しては、まず驚いたのが青山悟の小さい写真のような「校庭」という作品。最初は「絵かな?」と思うのですが、なんと刺繍!ものすごく細かい刺繍によって写真のようなリアルさを出しているのです。
 他にも池田学の作品なんかはわかりやすく「偏執的な細部へのこだわり」を見せていますが、「すごいな」と思ったのは山口晃加藤美佳
 山口晃は比較的有名でその画力が高いことは知っていましたが、「今様遊楽園」の凝り方には驚かされましたし、源頼朝像の写しとそれを西洋絵画の技法で立体的にしてみせた「遠見の頼朝共時性」にはうならされるようなアイディアと上手さがあります。
 加藤美佳の「パンジーズ」も鮮烈で、「絵を描くために、まず少女人形を作り、それを写真に撮ってキャンバスに描く」という特殊な制作方法をとっているらしいのですが、そのものすぎ書き込みによって得られた写真を超えたリアルな感じと、どこかにつきまとう不自然さには、非常に引きつけるものがあります。


 森美術館「万華鏡の視覚」展を見た時には「いわゆる現代以前の絵画とか彫刻とか工芸品だと「うまい!」とか「技術的にすごい!」という感想があるんだけど、この展覧会ではそういったものはほぼない。」と書きましたが、今回の「ネオテニー・ジャパン」ではそれがありました。
 このあたりは、一種の「技術回帰」みたいな流れがあるのかもしれませんが、個人的にはこれはとってもいいことだと思います。芸術はアイディアだけで成り立つものではないと思うからです。


 また、そういう難しいことを抜きにしても楽しめる作品もあります。
 特に、三宅信太郎の「STAR SWEET SHINTARO WARS LIVE PAINTHING 夢工場の逆襲への新たなる挑戦」は子どものラクガキと空想の世界を甦らせた快作!
 絵はまさに子どものラクガキ的構図だし、竹刀に赤と緑塗ってライトセーバーだし、とにかく子ども時代へ帰れるような作品。
 また、Mr.の「ドイツ人かもしれない」はタイトルの勝利。これもバカっぽいです。


 世の中は「阿修羅」かもしれませんが、この展覧会はオススメ。
 ちなみに、いまさらのなんだそれ?って感想ですが、奈良美智は絵がうまいんですね。今日実際生で見て、「ほんと上手いんだ」って思いました。

 
 ネオテニー・ジャパン ― 高橋コレクション
 http://www.neoteny.jp/