テーマと装丁に惹かれて古本で手に入れた本ですが、これがなかなか面白い!
「顔」というものの性質や、その力を心理学的な研究に基づいて紹介した本で目次はこんな感じ。
1 外見で人を判断する
2 顔にはなにがあるか
年齢を示唆する顔の手がかり
顔による性別の手がかり
顔に表れるアイデンティティーの手がかり
その他3 読顔法の基礎
見ればわかる――読顔法の正確さの判定、他
容貌――性格関係のモデル
過般化効果――誤った認知、他
その他4 心をなごませるあかんぼうの顔
あかんぼうに対する好意的な反応
好意的な反応をひきおこす鍵刺激
あかんぼうでないものの童顔5 童顔の損得
童顔の固定観念――声と童顔の固定観念、他
童顔にたいする社会の反応――職業にかんする反応、他6 顔の魅力を分析する
文化や歴史で変わる美の基準
美の共通の基準
その他7 顔の魅力の利点
魅力威光 美しいことはいいことだ――威光効果の男女差、他
魅力威光の起源――文化に支配される固定観念、他
その他8 変わる顔とうるわしき人格
幼いころの容貌からその後の性格への経路
幼いころの性格からその後の容貌への経路
その他9 顔の効果をとりのぞく
感知者が顔の効果に果たす役割――動機の効果、他
文化が顔の効果に果たす役割――親のかかわり、他
その他10 顔の仮面をはぐ
一般的に「人を見た目で判断してはならない」とされていますし、「人は中身が重要だ」と考えられていますが、人間は人間的な道徳観を持つと同時に、「動物」でもあり、私たちの「顔」に対する反応というのは、動物的な本能にも支配されています。
例えば、人間は誰でも(どこの国の人でも、子どもでも)赤ちゃんの顔が大好きです。赤ん坊の顔を見ると世界中のどこの人もほぼ同じような反応を見せます(本書96p)。
そしてこの赤ん坊の顔の魅力はキャラクタービジネスにも利用されており、ミッキーマウスは過去50年間で明らかに「赤ん坊のように」なっています。
これは微笑ましい反応にも思えますが、本書に書かれた次の部分を読むと少し怖くなることろでもあります。
早産で生まれた子は月満ちて生まれた子のようなかわいらしいこどもらしい容貌をそなえていない。目は大きくなく、頭は丸くない。虐待を受けている子どものなかにはとくにこういう子が多い。早産の子は新生児の六〜七パーセントしかいないが、虐待を受けたこの二〇〜三〇パーセントが早産の子であった。(中略)童顔でないあかんぼうはあまり人の心をなごませないようだ。こうした子はおとなの保護をうまくひきだせないし、おとなの攻撃もうまくくいとめられない。(112ー113p)
母の愛は「無償の愛」などと言われていますが、その一部は赤ん坊の「顔」から引き出されているものかもしれません。
この童顔の効果は大人になってもつづきます。
この本の第5章では童顔の特徴を分析し、童顔がどのように見られ、人生において得をするのか、損をするのかということが語られています。
このあたりは非常に面白いので実際に読んでほしいのですが、例えば、童顔の人は軍隊では出世しにくいですが、実戦になると勲章をもらうことが多いです。これは童顔の人が温かくてひ弱であるという期待を裏切って強い印象を残すからだと考えられます。(155ー156p)
また、顔の魅力という人びとが一番知りたい部分についての分析も面白く、そしてある意味で辛辣。
例えば、デートサービスで2回以上デートしたカップルは「年齢や職業が似ていなくても、魅力の点では互いに似ていた」(225P)ということですし、子どもでさえ、顔が魅力的な教師を圧倒的に支持します。しかも、その理由は「美人なら、頭がいいから」(231p)。
模擬裁判でも魅力的な人間は刑が軽くなる確率が高く、逆に魅力的な女性が被害者の性犯罪では刑が重くなる傾向があります。(ただ、魅力的な女性が独身男性をだますといった魅力を悪用した犯罪を侵した場合は罪が重くなったそうです(235ー236p))
さらに、魅力的な子どもは教師から目をかけられ、知的能力も伸ばす傾向があります。
けれども、これは微妙な力も同時に働いていて、子ども時代に魅力的だった少年は青年期に高い知能指数を示しますが、「それは背の高さが平均以下の少年にかぎられ、平均より背の高い少年については、反対の関係が見られた」とのことです。これは魅力的で背も高いと過大な期待が書けられるためと分析されています(272p)
そして、「人は中身が重要だ」という考えも、それが通用しているかというとやはり難しようです。
魅力的な女性はタイミングに関係なく好かれたものの、性格の情報は顔を見せる前に見せると効果をしめしたが、顔を見せたあとでは効果がなかった。肯定的な性格をそなえた女性が否定的な性格をそなえた女性よりも好まれたのは、顔を見る三秒前に性格の情報を見たときで、これにたいして、顔をさきに見たときには、性格は男性の好みに効果をしめさなかった。(295p)
第9章ではそうした顔の効果を踏まえて、それを打ち消す、あるいは利用するさまざまな方法が紹介されています。
化粧、整形、行動、周囲の人などさまざまな条件によって顔の効果というのもまた違ってきます。
例えば、平凡な顔をした人は、魅力的でない人と一緒にいるときより、魅力的な人たちと一緒にいた時のほうが、「同時同化効果」によって程々に魅力的だと判断されやすいそうです。(311ー312p)
化粧に関しても、化粧は基本的に女性の顔を童顔に見せるのに役立つと分析しています。ただし、「厚化粧の女性はどう見ても童顔には見えない」(301p)そうなので気をつけましょう。
訳文的にはやや読みにくいところもありますし(ひらがなが多くて読みにくかったりします)、原書にあった文献が削られているという大きな欠点もあるのですが、何より面白いネタのつまった本だと思います。顔の魅力をクローズアップする本書の内容に反発する人も多いでしょうが、自分が他人の顔をいかに見て、いかに判断しているかということを冷静に見つめ直すためにも読んで損はない本だと思います。
顔を読む―顔学への招待
Leslie A. Zebrowitz