『ハート・ロッカー』

 今日はアカデミー賞を獲った『ハート・ロッカー』を見てきました。
 イラク戦争を描いた映画で、主人公は爆弾処理の仕事をする兵士。監督は女性監督のキャスリン・ビグローですが、出てくるのはほぼ男ばかりという男臭い映画。しかも爆弾処理や戦闘シーンが映画の多くを占めます。
 イラク戦争を描いた映画というと、兵士の持つビデオカメラの映像や動画投稿サイトの映像、監視カメラの映像などを組み合わせてリアリティを出そうとした、ブライアン・デ・パルマの『リダクテッド』がありますが、この『ハート・ロッカー』は手持ちカメラなどで緊迫感を出しつつも、そこまで徹底的ではないです。
 だから、それなりにはでに見えても、この映画のテーマというのは「イラク戦争を新たなリアリティで描く」ということより、冒頭の言葉「戦争は麻薬である」ということにあるんでしょう。


 主人公のジェームズは自らの危険を顧みず無謀な爆弾処理も買って出る男。
 彼はいわゆる「戦争ジャンキー」で、彼の行動は勇敢で上からは賞賛されるものであるものの、戦友との間には軋轢も生むものです。そんな彼を中心に描いたこの映画は、現代の戦争の狂気というものを上手く描いています。 
 特にラストの展開は衝撃的でもあり、主人公の決断には説得力があります。
 ただ、そこに至る中盤のドラマが弱い。
 ジェームズは少年の遺体を見たあとから冷静さを失って行動するようになるわけですが、そのショックが主人公の心にどんなインパクトを与え、主人公の冷静さを失わせたのかがわかりにくい。
 前半と後半に大きな齟齬はないので、中盤がわかりにくくても全体のメッセージというものは伝わりますが、アカデミー作品賞にしてはそのあたりの完成度が低いと思う。


 キャスリン・ビグローの映画は『ハートブルー』が印象に残っているんですけど、「意味」よりも「強度」の取り憑かれた男の話としては同じものがありますね。
 嵐の中のサーフィンと戦争の爆弾処理、監督はそこに共通するものを見たのかもしれません。


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