高橋伸夫『虚妄の成果主義』

 時間が余ったときにダラダラと読んだので、大雑把に読んだ印象だけを。
 成果主義の問題点を指摘し、今までの「日本型年功制」の長所を再確認してみせた本。
 「成果に対して「賃金で応える」のではなく、「次の仕事で応える」のが日本の企業のやり方であり、それは正しい。」というのが本書の基本的な内容と言えるでしょう。
 この本でも紹介されているデシの実験によると、金銭的報酬は時に人々のモチベーションを奪うことがあり、金銭だけで人は動きません。
 また、限られた人件費の枠の中で成果主義を運用しようとすると、どうしても無理な低評価をせざるを得ないということがでてきます。
 「文庫版への補論」で述べられているように、社員の能力は正規分布するはずだという誤った思い込みがありますが、一度入社のための選抜を受けてきた社員の能力が正規分布するはずはなく、一部の上位者と下位者を除けば大体同じような評価を受けるはずなのです。そうした中で無理に正規分布に基づいた評価を行なおうとすれば、不当に低く、または高すぎる評価を受ける者も出てくるわけです。


 というわけで、成果主義の批判本としてはかなり説得力があると思います。また今までの日本企業の良さを示すエピソードもふんだんに取り上げられているので、共感する人も多いでしょう。
 ただ、少し疑問に思ったのは、日本のように不景気が続く中で、この「次の仕事」による評価続けられるのだろうか?ということ。
 経済が成長し、会社が成長している中では成果を上げた人に、より大きな仕事を任せて出世させていくということができますが、会社が成長できないような状況では、そもそも成果に見合うだけの「次の仕事」を用意できないということもあるでしょう。そうなると、とたんに「次の仕事」で成果に応えるという「日本型年功制」が見通しの暗い、不透明な制度になってしまうのではないでしょうか。
 著者の言う「日本型年功制」の長所というのはわかりますが、その長所はあくまでも「高度成長下、あるいは規模の大きな大企業ではうまくいった」という限定がつくもののようにも感じました。


虚妄の成果主義 日本型年功制復活のススメ (ちくま文庫)
高橋 伸夫
4480427597