『渇き。』

 『告白』の中島哲也監督が、深町秋生の小説『果てしなき渇き』に挑んだのがこの映画。原作は未読ですが、暴力やタブーのてんこ盛りということで、それを中島哲也がどう撮るのかと思って見に行きました。
 行方不明になった娘を探すヤク中でどうしようもない元刑事の父親を役所広司、一見優等生だけど実はとんでもない娘を新人の小松菜奈が演じていて、映画も役所広司が狂ったように動きまわる現在と、まだ表面上は破綻のない学校生活が営まれていた3年前を交互に描いていく形で映画は進行します。
 この3年前にシーンはスタイリッシュに撮れていて上手いです。新人の小松菜奈も天使と悪魔の二面性をうまく出していますし、映像的にもきれいだと思います。
 一方、現在のシーンは役所広司が最初っからあまりにもハイテンションでイカれているためにさすがに疲れる…。
 そのあたりを短いカットをつなぐことで何とかしようとしているんですけど、もうちょっと役所広司が普通の状態のシーンがあってもいいような気がしました。
 

 イカれた主人公が暴力に突き進んでいく作品というと、パク・チャヌクの『オールド・ボーイ』が思い浮かびます。実際、ラストの雪山のシーンなどを見ても明らかにパク・チャヌクから影響を受けているといえるでしょう。
 ただ、パク・チャヌクの作品が『オールド・ボーイ』にしても『親切なクムジャさん』にしても、復讐と暴力の連鎖がラストには「悲劇」の高みにまで達するのに対して、この『渇き。』は表層的な暴力とタブーの描写のレベルで終わってしまった気がします。
 暴力描写に関してはかなり激しいながらも、それなりにグロくなりすぎないように撮っています。けれども、その暴力がストーリーを進ませる力になっていないような気がしました。
 というわけで、特にバイオレンスな映画が好きではない自分にとっては、やや期待はずれでした。