D・C・ノース、R・P・トマス『西欧世界の勃興』

 以前読んだ、『経済史の構造と変化』が面白かったD・C・ノースの代表作の一つ。最近、復刊されて買おうかと思いながらも高くて手が出なかった所、以前の版の中古が安い値段で出ていたので購入。
 タイトルが『西洋世界の勃興』だったので、「なぜ他の世界よりも西欧世界が発展したのか?」ということを論じた本なのかと思いましたが、「西欧世界はどのように離陸して発展したのか?」ということを論じた本でした。
 「離陸」と書きましたが、この本が焦点を当てるのは産業革命によって他の世界と決定的な差ができる前の時代。中世(900年)から近世の終わり(1700年)にいたる前の時期です。
 この800年近い長い期間を追いながら、「離陸のポイント」と「西欧世界の内部、イギリス・オランダとフランス・スペインの間で差がついたのはなぜなのか?」という問題を探っていきます。


 そういった長期の歴史を記述した本にもかかわらず、この本は文献目録を除くと215ページ程度で、それほど厚い本ではありません。
 そのため、記述はかなり抽象的ですし、また具体的事例に触れるときもかなり飛び飛びで読みやすい本とは言えません。ヨーロッパの中世史・近世史にしっかりとした知識がないと著者たちが問題とするポイントを追いにくい部分はあると思います。
 また、所有権の確立に経済発展のポイントを見る点や、フリーライダーの問題を重視する点は『経済史の構造と変化』と同じですが、1973年に書かれたこの本よりも1981年に書かれた『経済史の構造と変化』のほうが分析の枠組みがよりはっきりしていてクリアーです。
 というわけで、今この時点でノースの考えを知りたいのであれば、『経済史の構造と変化』を読むべきでしょう。


 ただ、『経済史の構造と変化』に比べると、ヨーロッパの経済についてより突っ込んだ詳細な分析がなされており、三圃式農業の展開や、中世から近世にかけての各国の人口の増減や実質賃金の変化、そしてイギリス、オランダ、フランス・スペインといった国々のそれぞれの経済体制の違いといったものもわかります。
 特にスペインに関しては、度重なる戦争やユダヤ人の追放といったこと以外にも、国王が羊飼いのギルド(メスタ)にスペインの土地を通過する特権を与えており、それが私的な土地所有権の確立を妨げたということが指摘されており、なるほどと思いました(メスタの特権を廃止すれば、長期的には私的な土地所有権が確立し農業生産が増えると考えられるが、短期的には国王はメスタからの収入を失うことになるので踏み切れなかった)。


西欧世界の勃興[新装版]: 新しい経済史の試み
D.C. ノース R.P. トマス Douglas C. North
4623071715


自分が買ったのはこのバージョン↓
西欧世界の勃興―新しい経済史の試み (1980年)
R.P.トマス 速水 融
B000J87M2M


日経BPクラシックス 経済史の構造と変化
ダグラス・C・ノース
4822249441