『ストレイト・アウタ・コンプトン』

 ドクター・ドレーアイス・キューブがいた伝説的なヒップホップ・グループ、N.W.A(Niggaz Wit Attitudes)を描いた映画。いわゆるギャングスタ・ラップを確立したグループで、後のシーンに大きな影響を与えましたし、何よりもアイス・キューブもその後ソロとして成功、さらにドクター・ドレーにいたってはエミネムや50セント、ケンドリック・ラマーのプロデュースを行うなど、プロデューサーとしてアメリカの音楽シーンをつくったと言える人物です。


 そんなN.W.Aは、ロサンゼルスの中でももっとも治安が悪いと言われるコンプトン地区で誕生し、そこから全米に一大ムーブメントを引き起こしていきます。
 ギャングスタ・ラップというと、「汚い言葉(Fワード)の連発」、「自分をビッグに見せてるだけ」、「水着姉ちゃんたちを侍らせて太った黒人がゆらゆら揺れてる」というようなマイナスイメージがあるかもしれません。実際、僕もヒップホップは聴くものの、ギャングスタ・ラップは正直苦手で、あまり興味を持てませんでした。


 ただ、この映画を見るとギャングスタ・ラップが求められた背景、ウケた理由というのが見えてきます。
 コンプトンの街では、黒人の若い男であれば、歩いているだけで警官に取り押さえられボディチェックを受けさせられるような毎日で、将来は麻薬の売人になって刑務所に入るか死ぬか、といったのが将来像です。
 そんなクソのような場所から警察や社会に対して金をかけずに異議申立てをするには、ギャングスタ・ラップが有効だったのです。


 この映画では、1992年に起きたロサンゼルス暴動が出てきますが、この暴動もロドニー・キングという黒人男性がスピード違反で捕まり、その際に何にもの白人警察から暴行を受けた事件が発端となっています。
 この映画ではそういった時代背景を描くことで、ギャングスタ・ラップへの誤解を解くことにある成功していると思います(もっとも登場人物の何人かはたんなるギャングでもあるんですが…)。


 そして、もうひとつの面白さは『ジャージー・ボーイズ』と重なるグループの崩壊のドラマ。
 『ジャージー・ボーイズ』と同じように、この『ストレイト・アウタ・コンプトン』でも、グループのリーダーイージー・Eは、行動力があって人望もあって仲間よりは少し金を持っているけど金銭にはルーズな人物。
 成功に浮かれていた仲間も、徐々にリーダーのイージー・Eに搾取されていると感じて、まずはアイス・キューブが、そしてグループの核とも言える才能だったドクター・ドレーが去っていく。典型的なドラマなんですけど、それが説得力をもって描かれています。


 あと、何といっても劇中のライブがけっこう良く出来ていると思いますし、ドクター・ドレーのトラックも改めてかっこいいと思います。
 ギャングスタ・ラップが苦手でも、多少なりともヒップホップに興味が有るのであれば見て楽しめる映画ではないでしょうか。


Ost: Straight Outta Compton
Original Soundtrack
B017Z6LU2I