『シン・ゴジラ』

 映画の印象は、「岡本喜八『日本のいちばん長い日』+東日本大震災+『巨神兵東京に現わる』+ヤシマ作戦」。
 今まで見たことのないすごいものを見たという感じではないですけど、庵野秀明の今までの作品や、庵野秀明の好きなもの、そして何よりも日本人が東日本大震災で初めて目にすることになった映像が見事に再構成されている感じで前編を通して面白かったです。


 ハリウッドのCG大作映画をみてもわかるように、いくらお金をかけても「今までに誰も見たことのない画」というのはなかなかつくれないもので、結局「見たことのある派手なシーン」が繰り返しつくられているケースが多いです。
 宮崎駿のすごさというのは、この「今までに誰も見たことのない画」をつくれる点にあって、『風の谷のナウシカ』の雲に押し付けられる飛行機とか、『もののけ姫』のアシタカから放たれた弓矢とか、そういったシーンだったと思います。
 そして、そういう「今までに誰も見たことのない画」を見せつけたのが東日本大震災。平野に広がる津波の映像など、今までの想像力を打ち破るような映像がそこにはありました。


 この東日本大震災で目にした画や、政治家や官邸の動き、「決死」という言葉を感じさせた原子炉への放水作戦などのさまざまな要素を、ゴジラという戦後日本の生み出した代表的な存在を中心に再構成してみせたのがこの映画。
 特に東日本大震災福島第一原発の事故が言及されるわけではありませんが、見た人にはさまざまな映像からその記憶がよみがえるでしょう。
 テンポの早いドラマの部分といい、改めて庵野秀明の編集の才能には感服しました。総監督というポジションがどんなもので、監督・特技監督にクレジットされている樋口真嗣との分担がどうなっているかどうかはわからないのですが、最後に庵野秀明が編集しているというのはやはり大きいでしょう。


 ドラマの部分は、長谷川博己演じる内閣官房副長官が中心になりますが。そこで描かれるのは徹底的に政治の世界。清々しいほどに家族ドラマや恋愛要素は排除されています。当たり前ですけど、美少女がいなくても怪獣映画は成り立つのです。
 首相を中心にいかにも日本的な迅速な対応ができない様が描かれているのですが、だからといって上に立つ政治家が完全に無能というわけでもありません。法治国家であれば、法律の想定していない事態で立ち往生してしまうのは必然であり、そこをきちんと描いています。


 また、対策室の設置や会議の運営など細かい所のリアリティを疎かにしていないところも良い所で、会議の参加者なども手抜きしないできちんと数を並べています。
 この手の映画だとなぜか民間人が大活躍する一方で、政府の中枢は3人くらいといったこともあるのですが、きちんと組織を描こうとしているところは好感が持てるところです。
 石原さとみの役だけがリアリティがなくて、ちょっと浮いている感じもありますが…。


 以下は完全にネタバレ



 
 

 放射能が生み出したゴジラ冷温停止させるというのは、まさに福島第一原発廃炉作業のまんまですよね。そして、停止したゴジラを完全に除去できるわけでなく、今後も監視していかなければならないというのも福島第一原発と同じ。
 まさに東日本大震災が生み出した映画だと思います。