サーバン『人形つくり』

 国書刊行会から刊行が始まった<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの1冊で、先日紹介したL・P・デイヴィス『虚構の男』と同時発売された1冊です。
 「リングストーンズ」と「人形つくり」という2つの中編を収録しています。
 <ドーキー・アーカイヴ>自体がジャンル不問というか、どのジャンルにもきれいに収まらない本を集めたシリーズということもあって、この本もジャンル分けは難しいです。強いて言えば「伝奇もの」という感じでしょうか?


 「リングストーンズ」は、主人公とその友人のもとに、その友人の知り合いの女学生ミス・ヘイズルから謎めいたノートが届いたことから始まります。
 夏休みの間、子どもたちの家庭教師のアルバイトをすることになったミス・ヘイズルは、街から離れたリングストーンズという屋敷へと行きます。
 近くにストーンサークルがあるその屋敷には、ヌアマンという王様的な性格の少年と、マルヴァンとイアンセというおとなしい少女がいます。最初は、その子どもたちとの交流を素直に楽しんでいたミス・ヘイズルでしたが、次第に現代社会とは思えないリングストーンズとその周囲の様子が見えてきて…、といったお話です。


 一方の「人形つくり」は、これまた田舎にある寄宿制の女学校に通うクレアが、ふとしたことからニールという青年に出会い、そのニールと彼のつくる精巧な人形に惹かれていくという話です。


 2つとも、それほど突拍子のない話ではありませんし、話のアイディア自体はありそうなものです。特に「人形つくり」のような話は、他でもあるような話だと思います。
 では、この本、あるいはサーバンという作家の特徴がどこにあるかというと、サド・マゾ的な支配−被支配関係へのこだわりと憧れといったところでしょう。


 ただ、あからさまに性的なシーンはありませんし、男の暗い欲望が描かれているわけではありません。2つの作品ともほぼ女性の視点で書かれており、むしろ支配される女性にシンクロするような書き方になっています。
 このサーバンという作家は覆面作家で、死後、実はイギリスの外交官であったことが明らかになったのですが、おそらくこの作家は「女性になって支配される」ことを密かに欲望していたのではないかと思います。性的なシーンをあえて書かないことで、そのあたりがにじみ出ているように感じます。


 話自体がすごく面白いかと問われれば、「まあまあかな」くらいの感想ですが、何か微妙にねちねちとした雰囲気は独特の面白さがあると思います。


人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)
サーバン Sarban
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