『ゴースト・イン・ザ・シェル』

 見るかどうかずっと迷っていましたが、機能見てきました。とりあえずは、「なるほど、アメリカで実写化するとこういう方向に引っ張られるのね」というのが一番の感想です。
 100点満点で60点くらいの映画だと思ったので特にお薦めはしませんが、日本とアメリカの「文化の差」のようなものを考える題材としては面白いと思います。


 士郎正宗の『攻殻機動隊』はマンガは少佐というキャラを使ってさまざまなガジェットを描いたものでしたし、映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は、押井守という監督が主役のキャラを立てようとしない人物ということもあって、少佐というキャラの内面のようなものは深く掘り下げられることはありませんでした。
 TVシリーズの『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』も基本的には、少佐というキャラを使って組織や政治やSF的なアイディアを描こうとする作品だったと思います。


 ところが、アメリカでスカーレット・ヨハンソンを主演に据えると、まずは少佐の内面なり行動の動機を描く必要があるのですね。
 「少佐がなぜ全身義体化しているのか?」、「少佐はどういう来歴でここにいるのか?」といったバックグランウドが必要になるわけです。
 さらに少佐というキャラの内面に焦点が当たることで、公安9課という「組織」の描き方も薄くなっています。バトーはともかくとして、トグサもたいした役割を果たしませんし、データ分析も石川ではなく少佐自らがやってしまいます。

 
 そしてネットをメイン据えた近未来社会の描写も、『ブレードランナー』的世界観に引っ張られて義体(サイボーグ)がメインとなっています。
 この『ブレードランナー』的な世界観は、ストーリーにも大きな影響を与えていて、焦点になるのは「人形使い」のような「新しい生命体」では古典的なアイデンティティの問題になります。
 「アイデンティティを担保するのは記憶なのか?それとも別の何かなのか?」という、一昔前の自己同一性の哲学とかでとり上げられていた問題が前面にせり出してくるわけです。
 そのため、「ゴースト・イン・ザ・シェル」の「ゴースト」に関しては、言葉こそ出てくるものの、この映画の中ではその内実には迫っていません。


 ただ、監督やスタッフは押井守の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』は大好きみたいで、そのまんまというシーンがけっこうあります。光学迷彩に多脚型の戦車と、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』を見た人は懐かしく思えるでしょう。
 というわけで、20年以上前にあれだけのものを描いた『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はすごかった、というのが結論ですかね。


GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 [Blu-ray]
B01N12EY85