マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』

 国書刊行会<ドーキー・アーカイヴ>シリーズの第4弾。
 <ドーキー・アーカイヴ>シリーズはかなり期待していたのですが、今までに刊行された『虚構の男』、『人形つくり』、『鳥の巣』は、それぞれ面白いものの爆発的に面白い!とまでは言えず…。そのため、今回の『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』は刊行からやや遅れて読んだのですが、この小説、中盤(「猿の花嫁」)のところまではかなりの面白さですね。


 カバー見返しの内容紹介は以下の通り。

アメリカ南部ジョージアの小さな町に住むスティーヴィ・クライは数年前夫を亡くし二人の子どもを養うためフリーランスライターとして生計をたてていた。ある日愛用する電動タイプライターが故障し、修理から戻ってくると、なんとひとりでに文章を打ち始めた!妄想か、現実か?その文章はスティーヴィの不安と悪夢、欲望と恐怖を活写したものだった。それを読むうちに彼女は―そして読者も―現実と虚構の区別がつかなくなり…ネビュラ賞作家ビショップによる異形のモダン・ホラーにして怒涛のメタ・ホラー・エンターテインメント!巻末に“30年後の作者あとがき”を収録。(1984年作)


 電動タイプライターが勝手に文章を打ち始めるというアイディアは、それほど驚くべきものではないかもしれませんが、この小説の面白さは、そのタイプライターが打ち出した文章を小説内に織り込むことで、メタフィクション的な構造を作り出していることです。
 つまり、読者は今読んでいる文章が、主人公の行動を描写しているものなのか、それともタイプライターが打ち出した「フィクション」なのかわからないままに読み進めることになるのです。
 そして、このメタフィクション的な構成とホラーの要素のかみ合わせが中盤までは非常にうまく、読む方も驚かされます。
 また、表紙にもいる猿が物語を盛り上げるわけですが、最初に出てきた時の猿の描き方とかもうまく、ホラー的な雰囲気を盛り上げます。
 主人公でシングルマザーのスティーヴィ・クライの人物造形もよく出来ていますし、普通のホラー小説としてもよく出来ていると思います。


 けれども、後半はやや失速気味。いかにもモダンホラー的な要素を詰め込もうとして、中盤までの勢いが失われてしまった感じですかね。
 ただし、ブラックユーモアに満ちたラストはいいですし、物語がグダグダになるということはないです。
 というわけで、「傑作!」というにはちょっと足りないのですけど、十分に面白い小説といえるでしょう。


誰がスティーヴィ・クライを造ったのか? (DALKEY ARCHIVE)
マイクル ビショップ 横山 茂雄
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