『セロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督作品にして、Netflix製作ながら、アカデミー賞の監督賞を受賞した映画。アップリンクの渋谷でやっていると知り、ようやく見てきました。
まず冒頭から特筆すべきなのは撮影の上手さ。『ゼロ・グラビティ』のときは撮影監督のエマニュエル・ルベツキで「さすがルベツキ」と思いましたが、キュアロン自らが撮影監督を努めている本作でも空間を非常にうまく使った画作りがなされています。モノクロの映画なのですが、とりあえずはこの画作りうまさだけでも見る価値はあります。
ストーリーは1970年代のメキシコシティを舞台に、中流家庭の白人一家に雇われている家政婦を主人公として、その日常と家族のドラマが描かれています。
最初は年代を明示するような描写はないですし、物語がどのように展開するかもよくわかりません。主人公の働く家のガレージに残された犬のうんちと、主人公の恋人がフルチンで行う武術(カンフー?)が印象に残って、「これは妙な笑いを見せる映画なのか?」とも思いましたけど、後半になると一気に物語が展開します。
主人公の働く家の愛すべき4人の子どもたち(男の子3人と女の子1人)、その家庭の妻の苦悩、70年代初頭の舞台設定といったものが一気に意味を持ってきてドラマを作り上げていきます。
また、冒頭からどこかしら不穏な空気が漂っているのですが、その不穏な空気も後半になると「こういうことだったのか」とわかります。このあたりは脚本もうまいですね。
ちなみに主人公の恋人の謎の武術は、日本の侍とカンフーの混合のような形で「イチ、ニ、サン」と掛け声をかけつつ、なぜか「ジュウハチ、ジュウキュウ、サンジュウ」と20の位が無視されてしまうのですが、この謎の武道の意味も最後の方になって明らかになります。
なかなか言葉で簡潔に魅力を伝えるのは難しい映画なのですが、非常に良くできた映画で、アカデミー賞の監督賞を獲るのも納得の出来ですね。