『レヴェナント: 蘇えりし者』

 まず、とにかく撮影監督にエマニュエル・ルベツキを配した厳しい自然の描写が素晴らしいですね。さすが『ゼロ・グラビティ』、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、そして本作で3年連続アカデミー賞の撮影賞を受賞しただけのことはあります。
 見ている最中は、圧倒的な自然を撮ることで人間の存在を相対化する感じや、時々挟まれる夢の中の幻想的なシーンからテレンス・マリックの映画を思い出していたのですが、ルベツキは『ニュー・ワールド』、『ツリー・オブ・ライフ』、『トゥ・ザ・ワンダー』といったテレンス・マリック作品も撮っているのですね。どおりで似ているはず。
 スタートはイニャリトゥがテレンス・マリックをやってみたかった映画だったのではないかと。


 ただ、同じ「自然の中での人間の戦い」をテーマにしながらも、テレンス・マリックの『シン・レッド・ライン』とこの映画ではずいぶん印象が違います。
 『シン・レッド・ライン』に描かれたガダルカナルのジャングルは「楽園」のイメージで、その中で戦う人間の小ささが描かれましたが、この『レヴェナント』で描かれる自然は、生けるものに戦いを挑んでくるような厳しいもので、その中での人間が戦うのは必然といった感じさえします。
 そんな厳しい自然の中でレオナルド・ディカプリオは、熊に襲われたり、川に流されたり、動物の死体の中に入って寒さをしのいだりするわけで、まさに熱演しています。アカデミー賞の主演男優賞も納得です。
 

 そして、自然の違いとともに大きいのがイニャリトゥの「親子の絆」への強いこだわりでしょう。
 テレンス・マリックであれば、親子の絆といっても、所詮小さなものであり、圧倒的な自然の前では相対化されていきます。
 一方、イニャリトゥは『21グラム』でも『バベル』でも、「人生の存在価値は子どもの存在」といっていいような作品を撮ってきた人で、いくら大自然を前にしてもその価値観は揺らぎません。
 この『レヴェナント』は、実在の人物であるヒュー・グラスの経験が元になっている映画ですが、「息子を殺された」というのはこの映画で付け加えられた設定のようで、イニャリトゥが人が極限状態で生き延びる理由として設定したものじゃないかと思います。


 テレンス・マリックの価値観に共感するか、イニャリトゥの価値観に共感するかは人それぞれだと思いますが、個人的な好みを言うのであればテレンス・マリックですね。


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