W・G・ライカン『言語哲学』読了

 W・G・ライカン『言語哲学』を読了。これはなかなかお薦めの本。今まで言語哲学の入門書としては、飯田隆言語哲学大全』(勁草書房)とか野本和幸・山田友幸編『言語哲学を学ぶ人のために』(世界思想社)なんかがあったわけですが、それよりもいい本かもしれません。『言語哲学大全』は確かに素晴らしい本だけど分量が多すぎて3巻以降がかなりマニアックという問題点がありますし、『言語哲学を学ぶ人のために』は「なぜ言語が哲学の問題になるのか?」というところから丁寧に説明していますが、複数の執筆者が書いているため焦点がぼやけがちという欠点がありました。
 その点、このライカンの本は一人で書いているためまとまりがありますし、分量的にも手頃、それでいながら意味論の観点から、指示の理論、確定記述、固有名、ウィトゲンシュタインの使用説、グライスの心理説、デイヴィドソンの心理条件説、可能世界意味論、言語行為論、そして隠喩など様々なトピックスが取り上げられており、それぞれの哲学者たちの取り組んだ問題の接点というものがわかるようになっています(特に後期ウィトゲンシュタインを取り上げている部分は、無視か神聖視かで割れがちなウィトゲンシュタイン言語哲学の歴史として組み込もうとしている点から評価したいです)。また、クリプキの固有名論や、クワインの「2つのドグマ」、翻訳の不確定性など、スタンダードな議論がしっかりと収められており、かなり行き届いた内容になっています。
 言語哲学のトピックを全く知らない人にとっては導入の部分が弱いかもしれませんが、少しでも言語哲学について興味がある人にとっては有益な入門書だと思います。

言語哲学―入門から中級まで
W.G. ライカン William G. Lycan 荒磯 敏文
4326101598


晩ご飯は寄せ鍋