キャロル・エムシュウィラー『すべての終わりの始まり』読了

 第1弾のウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』が傑作だった、国書刊行会の「短編小説の快楽」シリーズ第2弾はアメリカの女性SF作家にして85歳を越える現在も作家活動を続けているキャロル・エムシュウィラーの『すべての終わりの始まり』。
 「SF作家」と書きましたが、SF的設定を用いながら読後感が必ずしもというかぜんぜんSFっぽくないのがエムシュウィラーの特徴。例えば表題作の「すべての終わりの始まり」は、離婚した中年女性のもとにやってきた一見すると友好的に見える宇宙人の秘密についての短編で、プロットだけを説明すると一種のSFホラーのようなものなのですが、読後の印象はそういったものではなくて、あくまでも「孤独な女性」の話。
 このような印象は、独り身同士で暮らす姉妹のもとに現れた謎の生物をめぐる「ジョーンズ夫人」でも同じで、この作品も書き方によってはホラーになりえるんだけど、エムシュウィラーの全くそういう所にはありません。
 少し不思議な世界の描き方とかは多少ケリー・リンクの『スペシャリストの帽子』に通じるものもありますが(「おばあちゃん」、「ユーコン」あたりの作品ならケリー・リンクが書いてもおかしくないかも)、作者の年齢といったこともあるのか、エムシュウィラーの作品には圧倒的な「孤独感」があります。
 孤独のあまり存在すら消えかかっている初老の女性を描いた「私とあなたは暮らしているけど、あなたはそれを知らない」、「セックスおよび/またはモリソン氏」、そしてそうした孤独な女性の妄想が爆発する「母語の神秘」。このあたりはエムシュウィラーにしか書けない、そして強烈な作品です。

すべての終わりの始まり
キャロル・エムシュウィラー 畔柳 和代
4336048401


晩ご飯は麻婆ナスと冷奴