『インランド・エンパイア』

 先月勇んで恵比寿まで行ったらまだやってなかったというデヴィッド・リンチの『インランド・エンパイア』、今日見てきました。

 シナリオもなしで、全編ビデオカメラによってリンチが思いつくままに撮影したというこの映画は相変わらずというか、相変わらずを越えてリンチ・ワールド全快でして、あらゆる解釈を拒むような作品です。
 でも、だからといって「意味不明だけどすごい!」みたいに書いてもしょうがないので、思いつく限り解釈してみましょう。というわけで以下はネタバレを含みます。もっともこの映画にネタがあるのか?という根源的な問題もありますけどね。




 この映画が、『マルホランド・ドライブ』や『ロスト・ハイウェイ』以上に意味不明なのは、揺れ動く現実の中で,その複数にわたって登場する象徴のようなものが前2作品にはあったの対して(『ロスト・ハイウェイ』のミステリー・マンとか『マルホランド・ドライブ』の青い小箱とか),この映画ではそういうものがきちんとしていない点。ウサギ人間あたりがその働きをするのかな?って思ったんですけど、あんまり決定的な役割は担っていないような…。

 というわけで、この映画に出てくる「世界」をとり出してみます。

(ア)、冒頭のテレビを見る謎の女性の世界。話の構造的にはこの世界が最上位のメタ世界なのかな?

(イ)、ウサギ人間の世界。このウサギ人間の部屋はポーランド映画の世界につながっている?そして『暗い明日の空の上で』の世界とも?

(ウ)、ローラ・ダーン演じるハリウッド女優ニッキーの世界。一応、これが現実?

(エ)、ニッキーの出演する映画『暗い明日の空の上で』の映画の中の世界。ニッキーの役名はスーザン

(オ)、『暗い明日の空の上で』のオリジナルであるポーランド映画『47』の世界

(カ)、ニッキーのもう一つの人生?ニッキーがハリウッド女優ではなく、夫も金持ちではなくサーカスの一団を招いて、そのままポーランドに行ってしまう。ニッキーは妊娠中。

(キ)、謎の女性軍団がでてくるシーン。これはニッキーの心の中?


 このうち中盤は(エ)〜(キ)が入り乱れて、はっきり言ってどれがどれだかよくわからない。最初は全部ニッキーの心の中の世界(つまり(キ))とも思ったけど、一応、4つに分かれているんじゃないかな?
 (エ)と(カ)の世界の違いがよくわからず、ラスト近くまでは(エ)の世界なんてとっくになくなってるのかとも思ったけど、裕木奈江が出てくるシーンのあとで(エ)、そして(ウ)の世界もきちんとまだ存在していることに気付く。

 ラストでは、ニッキーが(オ)と(カ)の世界に出てくる謎の男を射殺し、"47"の部屋を見つけて,ウサギの部屋を通って(ア)の世界の女性と出会う。つまり、今まで別々だった世界が一つにつながってくる。
 そして(ア)の女性は(カ)の世界に帰還?
 (カ)の世界はもう一人のニッキーの世界じゃなくて、本当は(ア)の女性の世界だったってことかな?
 (ア)の女性は何らかの理由で(カ)の世界から(ア)の世界に閉じ込められており、この映画の中で(イ)(エ)(オ)(カ)の世界がつながることによって、脱出できたってこと?

 というのが個人的な解釈なんですが、最後には再び謎のばあさんで、ばあさんをどう位置づけるのかという問題も…。


晩ご飯はチンジャオロースと冷奴