『シッコ』

 今日は映画の日ということでマイケル・ムーアの『シッコ』を見てきた。
 自らの足による取材、ひどい現状に差し挟まれるユーモア、過去の映画などをコラージュした映像、そしてアポなし突撃取材など、『ボーリング・フォー・コロンバイン』で使われた手法が今回も遺憾なく発揮されていて、いかにもマイケル・ムーア的な映画。
 そして、今回取り上げたアメリカの医療保険の問題というのも相当ショッキングなもの。治療費のために2本のうち1本の指の接合手術が受けられなかった男性、病気のために中流からいっきに転落して家を失う夫婦、保険会社の都合で最寄りの病院に行けずに死んでしまった子ども、入院費が払えないために路上に捨てられる患者など、これでもかというほどひどい現実が明らかにされます。
 一方で、治療の拒否すればするほど保険会社からの報酬が上がる医師たち、巨額の献金を受ける政治家の存在などが描かれ、この問題の根本にアメリカで国民介保険が実現していないことと、民間の保険会社が自らの利益のために医療制度を歪めていることがあることが示されます。
 感傷的すぎた『華氏911』に比べると、今回の『シッコ』では上記のことが的確に描かれていると思いますし、とにかくアメリカの医療制度の異常っぷりというのがよくわかります。

 ただ、この映画が非常に政治的な映画であるということもまた確か。
 医療制度問題は来年の大統領選挙の争点になる問題で、民主党の有力候補のヒラリー・クリントンクリントン政権下で国民介保険の実現を目指した人物。特にヒラリーを推している映画というわけではないのですが、あきらかに民主党陣営にとっては追い風となる映画でしょう。
 この映画は優れたドキュメンタリーであると同時にムーアの政治的主張とも言えるものです。

 あと、この映画で医療費が無料で国民に対するさまざまな保証が手厚いフランスが一種の理想的な社会として描かれているわけですが、そのフランスでアメリカ流の社会を目指すサルコジが大統領になったという点はどうなんでしょう?
 映画とは関係ないですけど、サルコジ支持者の社会観というのは気になりますね。