橋下劇場のすごさ

 何かと話題の橋下知事。別に好きでもないですし、当選当初は公約撤回したり発言撤回したりでグダグダだなーって思ってたんですが、彼は甘く見ては行けない人物。

 女性職員との朝礼でのバトルの時の「私語もタバコ休憩も禁止だ」っていう子どもっぽい屁理屈も、結局は反公務員の流れを捉えて支持率アップにつなげているみたいですし、そして今回の「涙の訴え」。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200804170052.html

 意見交換会には代理出席の堺市高槻市を除いて41の首長が顔をそろえた。当初、08年度予算で予定されていた市町村への支出金3357億円(貸付金含む)を、府の改革プロジェクトチーム(PT)が79億円削減する方針を示したことへの反論が相次いだ。

 口火を切ったのは大阪市平松邦夫市長。PTが高齢者や乳幼児らを対象にした医療費助成制度の自己負担増を打ち出したことで、患者によっては「年4千円から1万2千円の負担増になる」との試算を明示。「負担を引き上げるなら、具体的にどれくらいになるのか示したうえでお願いすべきだ」

 吹田市の阪口善雄市長は「まずは阿修羅のごとく、庁内で血を流す改革がなければ府民に痛みを押しつけられない」と反発。35人学級廃止方針について「府が先行して積み上げてきたのを急にやめますというのでは信頼関係は崩れる」と詰め寄った。

 首長らはマイクを次々に手渡しながら発言。守口市の西口勇市長は「すでに当初予算を施行している。今更協力をと言われても協力のしようがない。行政のルール違反だ」と批判した。府OBでもある枚方市の竹内脩市長は同席した府幹部に「身を挺(てい)して諫言(かん・げん)するのが皆さんの責任だ」。河南町武田勝玄町長は「政治経験が長い私たちの声もしっかりふまえてほしい」と38歳の橋下知事をたしなめた。

 「白紙に戻せ」「血も涙もない」などと1時間余りにわたって批判にさらされた橋下知事。「財政に余裕がなければいい政治はできない。住民に我慢をお願いするのも政治家の使命」と協力を要請。次第にボルテージを上げて「地方公務員の人件費は高すぎる。人が多すぎる」と叫ぶと言葉に詰まり、最後は涙を流し、声を上ずらせながら「一緒になって考え、今いちどご協力のほど、よろしくお願いします」と頭を下げた。

 だが、これには首長から「あれはないやろー」と会合後にブーイングも。守口市の西口市長は「あそこで泣かれたら我々市長は悪者。芝居じみている」。平松市長は「昨日の水都大阪2009構想の反対表明に続いてびっくりした。感情の高まりを覚えたのかな」と苦笑いした。府市長会長の倉田薫・池田市長は「泣きたいのはこっちだ。泣いてしまったら話が続けられない」とあきれ顔だった。

 こうして文字で読むと、前半の市長や町長の訴えはおおむね妥当なもので、府の予算削減の必要は認めつつも「この時期にこれはひどすぎる」というのは正直な所でしょう。
 しかし、41対1の勝負、しかも41の多数の側に正義があると市長や町長たちが思い込んでいるため、次第に発言は糾弾調となっていきます。
 ここでTVなどの映像を見ている人には奇妙な逆転がおります。つまり市や町の生殺与奪権を握っている府のトップである橋下知事が、権力者であるにも関わらず「弱者」に見えてくるのです。
 これは小泉首相が二度目の訪朝からの帰国後、拉致被害者家族会にきつい口調で問い詰められた時にも起きた現象ですが、このときもTVを見た視聴者は家族会の糾弾調の姿勢を非難しました。
 

 そして、橋下知事はさらにそこでとどめの涙。
 これによって、完全に「いじめる側の市長たち」、「いじめられる橋下知事」という構図が成立し、「橋下知事を支えねば!」という市民の支持を調達することができるのです。
 実際、市民の反応は橋下知事の支持に傾いてます。
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200804180093.html

 府には意見交換会後、電話やメールなど計884件の意見が寄せられた。府民課によると、電話216件のうち「とことんやれ」などと支持する内容が165件、失望や批判が51件だった。

 一方、森山一正市長が「白紙に戻しなさい」と発言した摂津市には225件の意見が寄せられた。多くは「知事に失礼だ」などの内容。また、「泣きたいのはこっち」と倉田薫市長が発言した池田市には「知事を泣かさないで」など95件の意見があり、大半が抗議だったという。


 長年ワイドショーにも出演していた橋下知事にとっては、市民のこの反応のというのは当然わかっていたことでしょう。ひょっとしたら、首長たちとの意見交換という場の設定もこうなることを予測してのことかもしれません。
 こう考えると、橋下知事の力というものをなめるわけにはいきませんね。
 しかも、小泉首相のパフォーマンスにはたぶんに無意識的な所がありましたが、橋下知事はほぼすべて意識してやっているのでしょう。
 個人的に、橋下知事こそ今現在もっともポピュリスト的才能を持った政治家だと思います。