『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』

 映画の日ということで昨日に引き続いて今日も映画。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』を見てきました。
 監督は『マグノリア』や『パンチドランク・ラブ』のポール・トーマス/アンダーソン。かなり強烈な登場人物を使ってエキセントリックな話をとる監督ですが、今回の映画も登場人物はかなり強烈。けれどもエキセントリックな展開は封印して今までとは違ったある意味で「重い」作品となっています。

 
 ダニエル・デイ=ルイス演じる主人公のダニエルは金と言うか権力と言うか、何か力を得ることに取り憑かれて石油を掘る男。力を求めて一心不乱に突き進むダニエルの周囲にはいつも血(ブラッド)なまぐさい暴力がある。
 そんな彼が連れて歩くのは息子のH・W。H・Wは途中で聴力を失うことになってしまうのですが、ダニエルはこのH・Wに対して利用すると同時に愛するという複雑な重いを持っています。この親子の歪んだ絆(これもある意味でブラッド)。この2つの「ブラッド」がこの映画の大きなテーマなんだと思う。


 そして、この強烈な男ダニエルと対峙するのがイーライという牧師。
 こう書くと金の亡者ダニエル対キリスト教的価値観を説くイーライという図式ができそうなんですが、このイーライというのが虚栄心の強いどうしようもない男でほとんど新興宗教の教祖。『マグノリア』でのトム・クルーズを思い起こさせるほどあやしい男なのです。
 シーンによってはひたすら成功を求めるダニエルのほうが倫理的に見える面もあり、単純な「悪対正義」ではない対決が見られます。
 今、ダニエルについて「倫理的」と書きましたが、成功を求めて勤勉に働くダニエルはある意味でウェーバーの言う資本主義の精神を体現した人物かもしれません。「資本主義の精神」と「宗教の堕落」、この2つのものがこの映画ではせめぎ合っています。

 
 ここで思い起こすのがこの映画の道具立てとブッシュの共通点。
 ブッシュは政治家になる前に石油業界にいましたし、彼を支持したのは熱心な信仰心を持つ宗教右派。さらには息子のH・Wというイニシャルはブッシュ大統領のお父さんであるジョージ・H・W・ブッシュ元大統領のミドルネームのイニシャルと被りますよね(ここはひょっとして原作がそうなってて関係ないのかも)。
 深読みすれば、ポール・トーマス・アンダーソンはこの映画に、現在のアメリカの「資本主義の悪」と「宗教の堕落」という2つの「悪」を映しているのではないでしょうか?
 

 ポール・トーマス・アンダーソンの他の作品と同じく、やや長いという欠点はありますが、個人的にはアカデミー賞を受賞した『ノーカントリー』よりも評価したいです。