ised@glocomで東浩紀を手伝ったりしていたという濱野智史のデビュー作。
ised@glocomの倫理研や設計研で議論されていた内容をもとに、現在のニコニコ動画、ケータイ小説、mixi、そして2ちゃんねるといった日本のwebの現状を分析した本です。
アプローチとしても、そのコンテンツの内容に注目するのではなく、そのアーキテクチャ(構造)に注目するスタイルで、あるwebサービスのアーキテクチャの特徴がどのような文化を生み、さらに次のwebサービスにどのように接続されるかということを、「生態系」というアナロジーを使って読み解いている本です。
本書の帯に「ウェブから生まれた新世代の社会分析。本書ぬきにニコニコ動画は、そして日本社会は変われない。」という文を東浩紀が寄せていますが、まさに東浩紀の問題意識、テーマの建て方とシンクロしている本といえるのではないでしょうか?
本としてはGoogleの分析から始まり、いわゆるweb2.0の話題もとり上げているのですが、何といっても面白いのは2ちゃんねるから始まる日本のwebサービスの分析。
2ちゃんねるが他のサービスと違ってなぜここまで「長持ち」するのか?
web2.0的なものとしてもてはやされたSNSが、日本に来るとどうしてmixiみたいになるのか?
ニコニコ動画はなぜあそこまで盛り上がれるのか?
こういった問題にアーキテクチャの分析からそれなりの答えを出せている本ではないでしょうか。
また、『恋空』の分析もなかなか面白いですね。『恋空』にも非常に繊細な部分があって、その文脈がわかる人にはわかるといった議論は「なるほど」と思いました。
もちろん、やや乱暴な面もあって、「限定客観性」という言葉は変じゃないか?(この言葉と「間主観性」はどう違う?)とか、webサービスにおける創始者の思想を無視しているという面はあります。(例えば、Googleに関しては「人類が使う全ての情報を集め整理する」という会社の理念を無視することはできないでしょうし、2ちゃんねるがここまで続いたのはひろゆきのキャラクターと才覚に負う所も大きいでしょう)
けれでも、そういった部分をざっくり切って、「個人ではなく社会を見る」といったデュルケーム的な視点が貫かれている所がこの本の面白い所でもあります。