『告白』

 実は中島哲也監督の作品は初めてだったんですが、これはいいですね。
 サッポロ黒ラベルの「温泉卓球」のCMなどをつくったきた人らしく自然なカットはほぼ一切なし。このあたりは同じようにCMやPVの仕事から映画監督になったデヴィッド・フィンチャーなんかを思い起こさせますが、スローモーションやリバースの多様などはフィンチャーを越えて、『300』や『ウォッチメン』のザック・スナイダーのレベル。
 まず、こういった新しい映像を撮れる日本の監督がいるってことを喜びたいですが、その新しい手法をアクション映画でないサスペンス的な映画で存分に使い切っていることがまたすごい。


 ストーリーとしては娘を自分のクラスの生徒に殺された松たか子演じる森口先生が、少年法に守られた少年二人に復習を仕掛けるという話で、正直、「少年法に守られた少年」、「殺人を犯す少年の心の闇」など、陳腐な題材によって組み立てられた話で、「復習の仕掛けとそのゆくえ」という上手さはあるものの、そんなによい話だとは思いません。
 だから、原作にも手をつけてませんでしたし、映画見たあとも特に読む気は起こりません。


 ところが中島哲也は、この手垢のついたような話を2つの技で非常に上手に料理してみせる。
 まず、1つ目は冒頭にもあげたスタイリッシュな映像。
 これによって告白中心の動きのないシーンも飽きさせないし、何よりも変に「重く」ならないようになっている。また、ラストの演劇的なシーンが浮かないのも、それまでにやや不自然なカットを積み上げているから。独特の撮り方が独特の「軽み」と「寓話性」を与えています。
 そしてもう一つは、松たか子演じる森口先生の描き方。
 復讐劇というと主人公に感情移入させるようなつくりになっていることが多く、例えばパク・チャヌクの傑作『オールドボーイ』も、この『告白』と同じように不自然でドラマチックな映像を多用しながら主人公に感情移入させ、最後にどんでん返しを喰らわすという映画でした。
 ところが、この映画の森口先生は悲劇のヒロインながら、感情移入を拒むような人物造型で、最後まで感情移入を許さない。
 特に、森口先生が人間性を見せたあとの「バッカみたい」、あるいは「なーんてね」のセリフは、観客の感情移入を外す上でまさに絶妙。
 おそらく映画オリジナルのセリフじゃないかと思うのですが、この2つのセリフだけでも原作を越えているのではないでしょうか?


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パク・チャヌク
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