桐野夏生『I'm sorry,mama. 』

 ストーリーとしてはいまいち展開しきれなかった感じで、ラストはかなり強引な展開。ただ、登場人物の描き方は桐野夏生ならではの容赦のなさ!「ちょっとした変人」のような人間を書かせるとほんとうまいですね。
 この小説、主人公は置屋で生まれ施設で育ち自分の親の顔も知らないアイ子という40代の女性。気に食わない人物を次々と殺して行く彼女はまさに怪物なのですが、彼女の描き方はある意味で類型的で、「絶対悪」的な魅力のようなものありません。
 一方で、脇の人物の描き方はぞくぞくするほど。
 孤児たちのための施設で働いていた美佐江とそこの子どもだった少し頭の弱い稔との年の差カップル、何万本もの割り箸で家の中に奇妙な小屋をつくっている大男のアダム、♪また勝つ、また勝つ、また勝つぞー♪と男たちが歌う中でホテルの女経営者としてご託宣を告げる又勝志都子、「金正日1号・2号」と呼ばれるクリーニング屋の双子の兄弟。本当に「どこからこんな人間たちを思いつくのだ?」と思うほど(又勝志都子はアパホテルの人がモデル?)、奇妙でそれでいてどこかにいそうな人間と人間関係が描かれます。
 とにかくこの本の魅力はここですね。
 ミステリーとしては謎を放置しちゃっているような部分もあるのですが、桐野夏生の生み出した怪人たちを楽しむことのできる小説です。


I'm sorry,mama. (集英社文庫)
桐野 夏生
4087462307