ジョン・パスモア『分析哲学を知るための 哲学の小さな学校』

 タイトルと表紙を見ると、「分析哲学のやさしい入門書」といった趣きですが、分析哲学を知らない人がこの本を手にとってもさっぱりわからないでしょう。この本は入門書ではなくて、それなりに分析哲学について知っていて著作も何冊か読んでいる人が、その知識を整理するため、あるいは「名前は知っているけど何を主張しているのかわからない」という哲学者のアウトラインを知るための本です。
 この本では1966年から1983年にかけての哲学がとり上げられ、その問題のポイントとそれぞれの哲学者の仕事が解説されています。


 目次は以下の通り。

第1章 序論―変化と連続(マルクス主義 言語学 ほか)
第2章 構造と統語論(ソシュール理論とその影響 構造主義者たち ほか)
第3章 統語論から意味論へ(カッツとフォーダーの意味論 モンタギュー―形式化された人工言語 ほか)
第4章 デイヴィドソンとダメット(デイヴィドソンの仕事(心理学の哲学 意味論) ダメットの仕事(言語哲学 反実在論))
第5章 実在論相対主義(パトナム以前 パトナムの科学哲学 ほか)

 目次を見るとわかるように、分析哲学だけでなく、マルクス主義構造主義といった大陸の哲学にも目を配っているのがこの本の大きな特徴。
 哲学に関して、「フランスが依然として鎖国状態を保っているというのは紛れもない事実である」(34p)と書きながらも、フランスのレヴィ=ストロースフーコーといった構造主義にも目を配っていますし、デリダに関してはかなりまとまった記述があって、「英米哲学の立場から見たフランス現代思想の見え方」が窺えます。


 また、何と言っても幅広い哲学者についてとりあげているのがこの本のいいところ。例えば、モンタギューなんかは分析哲学の本を読んでいれば名前だけは目にすると思いますが、邦訳されている著作もないですし、彼が何をしたのか?というのは多くの人にとってよくわからないものだと思います。実際この本でも「たいていの哲学者にとって、彼の書物は文字どおり開かずの本である」(93p)と書かれています。けれども、そんな難解なモンタギューをこの本ではきちんと解説してくれます。もちろん「すっきりわかった」とはなりませんが、何をしようとしていたかという感覚はつかめますね。


 そして、この「感覚をつかめる」というのがこの本の大きな特徴かもしれません。例えば、ヒラリー・パトナムについての「考えを変えることについてのラッセルて能力をパトナムがもっている」(207p)と書くなど、その哲学者の性格を描き出す筆が上手いです。
 最後にローティについての記述を引用しますが、思わずニヤリとさせられるような書きぶりですよね。

 「哲学者」たちが、誇りに思い、ローティの賞賛する著者たちの多くに欠けていると考えている事柄の一つに綿密な推論がある。擬似法廷的な反対尋問的論議が、哲学においては科学における実験のような位置を占めてきたと「哲学者」たちは考えてきた。こういう面での才能のある学生を探して、その能力を開発しようとしてきたのである。ローティによれば、哲学の課題はまったくちがう。 ー 会話を続けることである。(236p)


分析哲学を知るための 哲学の小さな学校 (ちくま学芸文庫)
ジョン パスモア John Passmore
4480095152